0106法案の根本理念(めざす人間像を含む)

 

 

164国会 衆特別委 第3回(524日)

○糸川委員 …このように人々の心が病んで社会が荒廃を続ける、こういう中にあって、今後どのような人間の育成というものを目指すおつもりなのか、これは総理大臣に、このお考えをぜひお聞かせいただきたいなというふうに思います。

 

○小泉内閣総理大臣 まず、人間にはそれぞれ持ち味があります。その持っている力を最大限に発揮できるような環境をつくるというのが国として大事だと思っております。そして、人間をつくるといいますか、人間がさまざまな持てる力を発揮できるようにするためには教育が必要であります。そして、この社会というのは人との助け合いによって成り立っているんだ、自分一人で生きているのではない、お互い持ちつ持たれつ、あるときは人を助けたり、あるときは人に助けられたり、支え合ったり支えたり、そして自分のできることは精いっぱい自分で努力しようと。
 子供のころ、よく先輩なり親から言われましたけれども、大人になれば公私相半ばする人間になりなさいと言われたことを今思い出します。子供のうちは、自分を充実させるためにほとんどの時間を使っていい。しかし、一たび社会に出たらば、その自分の持てる能力を生かすために、自分で努力したもの、人から教育を受けたもの、それを全部自分のために使うんじゃなくて、公に半分、自分に半分。すべて人のために、すべて公のためにというのは無理だろう。自分を常に成長させようという向上心が大事だ。自分を充実させるために、自分のために使う時間も大事だ。だから、一番いい言葉は、公私相半ばする人間というのがいいんだということをよく聞かされましたけれども、私はそうだと思っています。
 公私相半ばする。教育を受けて、そして、少しは人のために何かできることがあったらば、そういうことのために時間を使う、そしてまた、自分の向上に役立てる、自分の人格の完成に時間を当てる、そういう公私相半ばするような生活のできる人間になりたいなと思って、私なりに努力してきたつもりでございます。

 

 

164国会 衆特別委 第4回(526日)

○小坂国務大臣 戦後、日本が復興に当たって昭和二十二年に現行教育基本法を制定する、それに取り組まれた先達の真剣な思い、そして、我が国の発展を願い、その中にあって、人間として日本国民がどうあるべきか、そういうことを考えた上で、今御指摘のあったようなやりとりが行われて今日の基本法制定に至った。そういう意味では、大変重い議論であったと思いますし、我々の今置かれている立場も同じように大変重いものである、このように思うわけでございます。
 本法案の根本理念につきましては、本法案を貫く考え方を宣明する前文、すなわち、前文を置いたということでこの法案を貫く根本的な理念と趣旨を明らかにしているわけでございます。何を目指して教育を行い、どのような人間を育てるかという教育の根本的な目的を第一条に規定し、そして、前文においては、日本国民が願う理想といたしまして、民主的で文化的な国家、そしてその発展、また、世界の平和と人類の福祉の向上への貢献を掲げまして、その理想を実現するために、現行法を引き継ぎまして個人の尊厳を重んずることを規定するとともに、新たに、公共の精神の尊重、豊かな人間性と創造性や伝統の継承を規定しているところでございます。
 また、第一条、教育の目的では、各個人の備えるあらゆる能力を可能な限りかつ調和的に発展させることによって人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として心身ともに健康な国民の育成をすることを規定したところでございまして、これらが今回の基本法改正案の根本的な理念を申し上げるわけでございまして、二十二年の議論のように、個人の尊厳こそすべてを貫くその大前提である、その当時の理念も引き継いで、さらに、今日的な課題を解決するための理念を盛り込んだものでございます。

 

○小坂国務大臣 一つは、今局長が答弁させていただきましたように、国民全体で、すなわち教育の一番のもとは家庭でありますけれども、同時に、学校、地域、それらが一体となって教育について考え、そして、それを実現するための努力を行っていくことが必要だと思っております。
 今回の教育基本法の改正に当たりまして私どもが原理原則として重視をしておるものの幾つかを述べさせていただきますが、我が国の未来を切り開く教育が目指すべき目的や理念、この中には、知徳体の調和がとれ、生涯にわたって自己実現を目指す自立した人間ということ、また、公共の精神をたっとび、国家、社会の形成に主体的に参画する日本人、また、我が国の伝統と文化を基盤として国際社会を生きるたくましい日本人の育成を目指し、引き続き改革を進める必要があるということであります。
 こうした観点から、今回の改正においては、これまでの理念に加えて、豊かな情操と道徳心、創造性、公共の精神、生命、自然の尊重、伝統と文化を尊重し、我が国と郷土を愛する態度などが重要と考える理念というふうに考えまして、これらを新たに規定することとしたものでございます。

 

○藤村議員 牧委員にお答え申し上げます。
 昭和二十二年にさかのぼってもう五十九年になるんでしょうか、現行教育基本法がどういう役割を果たしてきたか、あるいは今何が問題かということの議論を始めていただいたことに敬意を表したいと思います。
 現状認識というか、今何が必要かということを考えるに当たって、我々は中教審答申による提言のもとで立法したわけではございませんが、そのやはり新しい理念、そして新しい原則、中教審答申では現行法に若干足りないのではないかともおっしゃっておりますが、そのことをやはり最初に我々は基本的に考えたところでございます。
 そして、民主党案においては、前文で、まさに理念一色ということではございますが、今前文を読んでいると長いものですから、少し簡略化して申し上げたいと思いますが、我々が直面する課題が、自由と責任においての正しい認識、また、人と人、あるいは国と国、宗教と宗教、人類と自然との間に、ともに生き、互いに生かされるという共生の精神の醸成が必要であるという現状認識でございます。
 そして、もちろん、現行憲法のもとに我々の目指す教育というのを理念として掲げているのは、人間の尊厳と平和を重んじ、生命のとうとさを知り、真理と正義を愛し、美しいものを美しいと感ずる心をはぐくみ、創造性に富んだ、人格の向上発展を目指すこととし、また、さらに続けて、自立し、そして自律の精神を持ち、ちょっとリツの字が違いますが、個人や社会に起こる不条理な出来事に対して連帯して取り組む人間性と公共の精神を大切にすること、さらに加えてもう一つ、人間像でありますが、日本を愛する心を涵養し、祖先を敬い、子孫に思いをいたし、伝統、文化、芸術をとうとび、学術の振興に努め、他国や他文化を理解し、そういう人材育成、人間育成をもって新たな文明を創造したい、これが理念でございます。
 そして、原則ということもお尋ねがございました。原則はそんなにたくさん挙げるわけにはいかないんですが、まず一つは、我々の今回の新しい法律において、憲法二十六条の教育を受ける権利を具体化するために、学ぶ権利の保障、それから、適切かつ最善な教育の機会及び環境の享受など、教育を受ける側の視点に立って取り組むこと、二番目に、世界人権宣言あるいは児童の権利に関する条約など、子供や教育に関するさまざまな国際条約にうたわれている原則を踏まえたものとすること、三番目に、命の問題、あるいはニート問題、インターネット社会の問題、現代的な問題でありますが、かつ、これは将来にかかわる大きな問題だと考え、これらに十分配慮をすること、そして四番目、最後でありますが、新しい時代に即した教育行政の考え方を我々なりに提示し、学校を中心とした運営の確立と、そして、最終的にはやはり国の責任を明らかにしたい、この四原則をもって今回の立法に当たりました。

 

164国会 衆特別委 第4回(526日)

○糸川委員 そうすると、これが、実際、今大臣がお答えいただいた問題に対応する内容になっているのか、今回のこの教育基本法の改正によってどのような人間の育成を目指されるのか、文部科学大臣のお考えをお聞かせいただければと思います。

○小坂国務大臣 グローバル化の進展とか情報化の進展、また科学技術が大きく進歩をしてきた、こういった社会的な変化というものもあるわけでございます。
 こういった変化に対応するために教育を行うためには、この基本法を改正し、我が国の未来を切り開く教育が目指すべき目的と理念を明らかにする、そのように考えまして、知徳体の調和がとれ、そして生涯にわたって自己実現を目指す自立した人間をつくる教育、また、公共の精神をたっとび、国家、社会の形成に主体的に参画する日本人の育成、また、我が国の伝統と文化を基盤として国際社会を生きる日本人など、二十一世紀を切り開く、心豊かでたくましい日本人の育成を目指して教育改革を進めていく、このように考えているわけでございます。