0740民主党案における学ぶ権利の意義

 

 

164国会 衆特別委 第7回(61日)

○達増委員 だから憲法の議論が大事なわけです。恐らく、政府は、現行憲法の教育を受ける権利の解釈として、こういう財政措置は教育を受ける権利の侵害にはならない、また、義務教育の無償の保障の違反にもならないという解釈をして、今の憲法に基づいて教育基本法改正案を出してきたということなんでしょうけれども、我々は、現行憲法下にあったとしても、そのような憲法解釈では足りない。
 教育を受ける権利、世界的にはユネスコでも学習権という言い方をしておりまして、国の役割としても、昔は夜警国家といって、軍事、警察、裁判とかだけやっていればいいという夜警国家から、二十世紀は福祉国家、国民の生存権というものも保障し、働く権利も認めていかなきゃならないというような福祉国家に二十世紀は進んできて、恐らく二十一世紀は教育文化国家、学習国家と言ってもいいと思いますけれども、国民一人一人、さらには何人も、学んで生きる力を身につけて、また国政にも参画していくような教育文化国家あるいは学習国家、そういう憲法体系を持っていなければならないと思うんですね。
 ですから、端的に、これはもう憲法を改正して、そういうはっきりしたわかりやすい学習権、学習権というと子供の学習が主としてイメージされるので、今回の日本国教育基本法案では学ぶ権利という言い方をしておりますけれども、それを憲法ではっきり決めた上で民主党が提出している日本国教育基本法を成立させますと、地方財政の危機に直面するところで、地方に義務教育を任せてしまうようなことは国としてとり得ないということがはっきりするわけであります。
 これは総理に紹介したいと思うんですけれども、統治することを古語で「しる」と言うんですね。明智光秀の最後の連歌の句で「ときは今あめが下しる五月かな」という、あの「しる」です。天下統一の統、統治の統、「統る」。日本は古語で、治める、統治することを「統る」と言ってきたわけですけれども、古事記では、その「しる」というのを知識の知という漢字を当てているんですね。つまり、「知る」ことが統治すること、治めること。これは物すごい、古代日本人の直観といいますか、本質をついていることだと思うんです。
日本の伝統、文化を大切にしながら二十一世紀の国のあり方を考えると、これも重ねて総理に伺いますけれども、やはり、知る権利や情報へのアクセス権、そういったものも含み、知識、情報に関する権利、広く学習に関する権利、そういうものを憲法にきちっと定め直して、学習国家、教育文化国家として二十一世紀の日本をつくっていかなければならないと思いますが、いかがでしょうか。

○小泉内閣総理大臣 日本国憲法は基本的権利を定めた大事なものでありますが、文章に規定されていないから大事ではないとは言えないと思うんです。文章に規定されていない、憲法の条文になくても、大事なことはやっていかなきゃならないのが政治だと私は思っています。
 学習の権利、また、憲法二十六条、教育を受ける権利、これは大事でありますけれども、仮に憲法でそういう規定がなかったとしても、日本は教育を重視してきたでしょう。憲法でそういうような条文を入れるということには賛成でありますけれども、日本国民というのは、仮に文章で規定されなくても、教育の重要性を十分認識している国民だと私は思います。
 これからも、文章に規定していなくても、さまざまな形で、国も地方も、また各地域も協力して、教育の重要性を認識しながら、国民参加のもとでいい教育環境をつくっていこうという政治の方向については多くの共感を得るんじゃないかなと思っております。

○達増委員 一つ総理に確認させていただきたいんですけれども、日本国政府のやることというのは、何一つ、憲法や法律以外のことはやっていないんじゃないでしょうか。
 直接、憲法がああすべき、こうすべき、あるいは法律でこうすべきと書かれたことをやるほかに、ある程度行政の裁量という分野もあるんですけれども、その行政の裁量というのも、実は裁量でやっていいということが憲法や法律で規定されている。各省庁の設置法などで、これこれこういうことについてはやるんだと書かれているからやっているんであって、近代立憲主義国家において、政府というものは憲法や法律の外にはあり得ない、必ず憲法、法律に基づいて政府は何かするんだという理解でよろしいですよね。

○小泉内閣総理大臣 さまざまな行政なり対応が、憲法の条文にないからやってはいけないということじゃないんです。基本的な総論の中で、自由と民主主義を大事にする国家としてどういう対応が必要か、行政として何が必要かというのは、文章に規定されなくても、その総論の中で各論をどうしていくかという問題でありますから、各論を全部文章で決める必要はないというのが私の真意であります。

○達増委員 この後の議論にも関係するので、もう一度確認しますけれども、政府のやることというのは、日本国憲法のもとにある、そして、すべて法律に基づいて国の行政が行われるというのは、それでよろしいですね。

○小泉内閣総理大臣 それは、法治国家ですから、法律に基づいてやる。しかし、法律以前に大事なこともたくさんあるということであります。