コラム(2007年1月)


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おおいた評論:いらぬ説教 /大分

元日紙面に載った日本経団連の提言に新年早々、嫌な気分になった。安倍首相の「美しい国」に寄り添うように題名は「希望の国、日本」。今後10年間の成長のために法人税減税、消費税増税、規制緩和の推進や労働法制の見直しをうたう。

相変わらずの強者優遇。格差がさらに広がるのでは、との疑問は置くとしても「心」にまで干渉している点が看過できない。公徳心や愛国心が社会に欠けているからと「教育現場のみならず、官公庁や企業、スポーツイベントなど、社会のさまざまな場面で日常的に国旗を掲げ、国歌を斉唱し、これを尊重する心を確立する」という。

「個」より「公」重視の改正教育基本法を受け、待ってましたとばかり。いらぬ説教ではあるまいか。「サンデー毎日」昨年末号を読んでほしい。1年間の各界の不祥事特集。湯沸かし器中毒事件のパロマ、欠陥車放置のトヨタ、手抜き点検の日航など、167件中42件が名だたる企業の「おわび」である。消費者の命や従業員の生活より利益優先。「公徳心」を説く資格があるのだろうか。

経団連が法人税減税を求める背景には、高い税金を嫌う企業の海外逃避があると聞く。国民の働く場がどうなろうとおかまいなしの一方で「愛国心」を説く。漫画ではないか。職場での国旗・国歌などは論外。ただでさえ従順な国民性、労組も弱体化した今、強制につながりかねない。憲法が保障する思想信条の自由を侵す恐れが限りなく強い。

元日の他紙には、天皇陛下のこんなお歌が載っていた。<年老いし人あまた住む山里に雪下ろしの事故多きを憂ふ>。規制緩和の裏で進む地方の疲弊に、心を痛めておられるのではあるまいか。3年前の園遊会、学校での国旗・国歌の徹底を進める東京都の教育委員に陛下は「強制にならないように」とおっしゃった。経団連の提言は不戦を誓った憲法9条の「改正」をも主張するが、大戦の激戦地サイパン訪問の折、陛下は朝鮮半島出身者や米兵、住民と、すべての死者に深く頭(こうべ)を垂れられた。

「日本国憲法を遵守(じゅんしゅ)する」との即位時のお言葉通り、陛下は人々の幸福と平和に心を砕いていらっしゃる。日の丸・君が代は皇室と密接不可分、その尊重を説く経団連のお歴々も皇室尊崇の念はさぞ厚かろう。陛下のお心を、わが心としていただきたいものだ。<大分支局長・藤井和人

毎日新聞大分版 2007年1月9日

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