2009年10月


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成人年齢18歳 根本から議論し直しては

 政府の法制審議会(法相の諮問機関)が、民法の成人年齢について18歳に引き下げるのが適当とする意見をとりまとめ、千葉景子法相に答申した。

 民法改正への手続きが整った形だが、法相は2010年の通常国会への改正案提出見送りを示唆している。少年法の年齢規定の扱いなど課題が多く「拙速に結論は出せない」と述べた。年齢基準がある法令は少年法のほかにも未成年者飲酒禁止法など約300に上る。

 答申自体、現時点で引き下げれば消費者被害拡大などが予想されるとし、若者の自立促進策などの充実が必要として法改正の時期は明示しなかった。

 内閣府が昨年秋に発表した世論調査結果では、親権が及ぶ年齢を18歳未満とすることに7割が反対した。「経済的に親に依存」「判断能力が不十分」といった理由からだ。親の同意なしに契約できる年齢の引き下げには8割が反対した。社会の抵抗感は根強いと言える。調査は18歳以上が対象で、各年代とも同じ傾向だったという。

 引き下げ論議のきっかけは憲法改正手続きを定めた国民投票法成立(07年)だった。10年5月の投票法施行までに民法の成人年齢引き下げを検討するとした規定に従い、ここまできた。引き下げが若者の自立を促し自覚を高めるともされるが、まだ実際に引き下げられる環境にはないと言えそうだ。

 内閣府世論調査の反対理由を見れば、引き下げの必要性自体を含めて根本から議論し直すべきかもしれない。

 加えて言えば、これまでの議論は大人だけで進めてきた観がある。世論調査で一部の若者の意見は聞いたものの、十分だったかどうか。18歳前後の若者自身はどう考えているのかつかむ努力も今後求められよう。

山陽新聞 2009年10月30日

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教員養成6年制―まず教職大学院の拡充を

先生の力量をどう向上させるか。これからの学校に求められる先生像とは何か。鳩山政権の教育施策の柱の一つ「教員改革」議論が動き出した。

文部科学省は、小中高などの教員養成期間を6年に延ばし、大学院で修士課程をおさめることを条件とする制度の検討を始めた。教育実習にも1年をかけるという。自公政権下で今春から導入されたものの、効果が疑問視されていた教員免許更新制は、来年度限りで廃止する方針だ。

先生に降りかかる問題は複雑化し、必要な知識や技量は高度になっている。専門性と実践力を兼ね備えた修士の先生を増やすことには賛成したい。ただ一足飛びに教員免許の要件とするには課題が多すぎないか。

免許取得に6年もかかると、教員志望者が減る恐れがある。大学院まで出ても採用されるかどうかわからないからだ。学費も重荷になるだろう。

6年間続けて理論を深めるだけでは、すぐに現場で役立つとは限らない。実践力をつけるために実習に1年もかけられれば理想的だが、受け入れる現場の負担は並大抵ではない。

まずは大卒で免許を取って現場へ出て、何年か経験を積んだのち、また大学院で学ばせるような制度の方が現実的であり、効果的かも知れない。

昨年から、授業づくりや学校運営のリーダーを育てる場として「教職大学院」が始まった。大学新卒者が進んだり、希望する現職教員が休職して通ったりしている。全国に24校、院生はまだ1300人足らずだ。

この教職大学院の拡充から始めてみてはどうか。修了者の採用や待遇、現職教員の入学については各教育委員会が配慮する。奨学金を用意する、といった支援策も必要になろう。

学校現場では「やる気の20代、行動力の30代、企画力の40代、まとめ役の50代」という。経験年数に応じて課題も変わる。教員養成は採用や研修のあり方とも一体で考えたい。社会人経験者をはじめ多彩な先生を学校に引き寄せる工夫もしてほしい。

同時に、教える環境の充実も議論するべきだろう。

現役の先生たちからは、日々雑務に追われる嘆きが聞こえる。そのゆとりのなさが指導力低下につながっている面もある。大学院に入ることを含め、先生たちが勉強する余裕を持つためにも教員の数を増やす必要がある。

不適格教師排除の議論から始まった免許更新制のように、先生の尻をたたくだけでは教育の質は高まらない。せっかく指導力をつけても、現場に余裕や裁量の余地がなければ生かせない。

情熱を持った優秀な若者が先生をめざして競う。子どもとともに先生も、のびのびと学び、教えられる。そんな改革を目指したい。

朝日新聞 2009年10月27日

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貧困率15% 総合的な対策で改善を

 全国民の中で、低所得者の割合がどのくらいになるかを示す「相対的貧困率」を、厚生労働省が初めて公表した。

 自公政権時代も、貧困問題に取り組む民間団体などが政府に貧困率の調査を求めていたが、実施されないままだった。今回の公表を貧困解消に向けた新政権の取り組みの第一歩と評価したい。

 相対的貧困率は、国民を所得額の高い順に並べ、その中央値の半分に満たない額の人が、どの程度の比率になるかを示した数値だ。

 厚労省が調べたのは、1998年から2007年まで3年ごとの貧困率。07年は15・7%で、98年と比べて1・1ポイント、直近の04年比でも0・8ポイントそれぞれ悪化していた。

 07年の中央値は228万円だから、国民の7人に1人が114万円未満の年間所得で生活していたことになる。

 景気が低迷する前の07年ですら、この状況である。現状はさらに悪化しているに違いない。

 こうした状態を放置することは許されない。調査結果を基に、貧困率の削減目標を定めるなどして対策を講じてもらいたい。

 貧困率上昇の最大の要因は、非正規労働者の増加だろう。低賃金で働く人が増え、国民の間に賃金格差が拡大した。

 今や、働く人の3人に1人以上を非正規労働者が占める。年収が200万円以下のワーキングプア(働く貧困層)も1千万人を超えた。

 その背景には、規制緩和の一環として、労働者派遣法の対象業種を次々と拡大したことがある。86年の施行時は専門の13業種に限定して派遣を認めたが、99年には原則自由化された。

 労働者派遣の中で特に問題が多いと指摘されるのは、日雇い派遣をはじめとする登録型派遣だ。

 仕事がある時だけ派遣元の会社と契約して働くため、雇用が不安定になってしまう。しかも、登録型で働く人たちは、派遣労働者全体の7割以上を占めている。

 民主党は労働者派遣法を改正し、登録型派遣を原則禁止する方針だ。早急に実現してほしい。

 もちろん、貧困の解消はこれだけで済まない。

 最低賃金を引き上げていかなければならないし、無年金・低年金の問題もある。子供への貧困の連鎖を食い止めるには、育児や教育の分野での支援も必要だろう。

 これらは民主党の政権公約にも盛り込まれている取り組みだ。

 憲法が保障する健康で文化的な最低限度の生活を誰もが送れるよう、総合的な施策が求められている。

北海道新聞 2009年10月27日

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学力テスト 徹底論議し最良の制度に

 文部科学省は、小学6年生と中学3年生を対象に毎年実施している全国学力テストを来年度以降、全員参加方式から抽出方式に変更する方針を決めた。

 全国一律一斉のテストは2007年度に43年ぶりに復活し、本年度まで3回続いた。私たちは社説で「全員参加が毎年必要か」と問いかけてきた。学力の全体状況を見るという主目的に照らせば、参加者が毎年200万人を超す大規模テストは不要と思うからだ。その意味では妥当な見直しだと考える。だが、それで十分かというと、注文が幾つもある。

 文科省は来年度予算の概算要求に、テスト実施費用として本年度予算より21億円削減して36億円を計上した。

 テストは現行通り国語と算数・数学2教科とし、学級単位で全体の4割を抽出する。調査対象外の学校、学級でも自治体などが希望すれば問題用紙を配り、模範解答を参考に自主採点して改善点をつかみ、指導に生かしてもらうという。

 学力テストについて、民主党は無駄な事業を洗い出す衆院選前の「事業仕分け」の中で「学力傾向を把握するには抽出調査で十分」としていた。川端達夫文科相も就任後、同様の認識を示した。

 いわば既定方針であり、テスト実施を来春に控えるなか、最小限の見直しで当座をしのごうという考えだろう。

 調査対象外も実質参加できるとなれば、恐らく相当数の自治体がそれを望むであろう。まずは混乱なく実施できるよう、準備態勢を整えてもらいたい。

 それ以上に大事なのは、今後の学力テストをどうするか、その制度設計だ。

 もともと今回のテスト復活には、国際学力調査での低迷を受け、04年秋に当時の中山成彬文科相が「これまでの教育には競い合い、切磋琢磨(せっさたくま)が欠けていた」と導入を強く主張したことが働いた。半ば政治主導で導入が決まり、今度は政権交代で方針が変わる。そんなことで学力テストのあり方がぶれるようであれば、テストを受ける子どもが不幸である。

 毎年、手を加えて改良することはあるだろう。しかし、テストのあり方が、くるくる変わるようであっては困る。恒久的な仕組みを確立する必要がある。

 川端文科相は、テスト科目を増やす▽対象学年を広げる▽毎年実施を隔年にするなど頻度を減らす−なども今後、検討するという。ならばこの際、省内だけで吟味するのでなく、学校現場を含め幅広い関係者を集め、テストのあるべき姿を求めるべきだ。徹底して議論、検討する場を早急に設けてもらいたい。

 学力テストは子どもの学力維持・向上に資するのが最大の眼目である。そのために、子どもの学力を把握して教育施策や指導の改善に役立てるのである。

 そうした大きな目標に向け、何が必要か。テスト結果をきっちり分析し、指導方法など教育現場への支援策をどう講じるか。検討課題は少なくない。

西日本新聞 2009年10月25日

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学力テスト 混乱繰り返さぬように

 全員参加型だった全国学力・学習状況調査(学力テスト)が、来年度から抽出調査に変更されることになった。

 全国一斉の学力テスト実施に対しては、成績順位への過度の関心や序列化などの問題が指摘されていた。結果公表をめぐって、一部の知事と教育委員会の意見が対立するなど、ごたごたも絶えなかった。

 見直しは当然といえる。文部科学省には混乱を繰り返さぬよう、抜本的な改善を求めたい。

 学力テストは、全国の小学6年と中学3年を対象に2007年度に始まった。国語と算数・数学で、その知識と活用力を毎年調査してきた。

 文科省は、3回行われた調査の結果についていずれも「都道府県別の平均正答率に大きなばらつきはなかった」と分析している。

 過度な競争や序列化を防ぐためとして、都道府県教委に市町村別の結果を公表しないよう求めていたが、情報公開する事例も出ている。

 成績結果に一喜一憂する傾向も見られ、学力水準の把握と分析という調査の趣旨を外れる事態にもなっていた。

 これらの制度的なほころびは、学力テストの導入前から懸念されていたことだ。1960年代に競争過熱で廃止となった旧学力テストの反省が生かされたとは言えないだろう。

 今回の見直しで、文科省は小学6年と中学3年の40%程度を抽出して実施する方向で調整している。

 それに伴い、本年度は58億円かかった費用も、採点、発送コストの削減などで36億円程度に抑えられるとしている。

 抽出といっても4割はかなり高い割合だ。全国で約90万人の児童、生徒が参加する計算になる。

 高い調査精度を保つために統計の専門家の意見などを参考にしたというが、教育現場に負担がかからないか。もっと絞り込むことも検討してほしい。

 調査対象から漏れても、希望すればテストへの参加が可能な仕組みも検討しているという。

 「うちだけが、やらないわけにはいかない」といった単なる横並び意識での参加は避けたい。

 任意の参加に際しては、学校や保護者らが、その是非を十分に話し合うことが必要だろう。

 肝心なのは、子供たちが学ぶ喜びを身に付けることだ。遠回りのようだが、それが本当の意味での学力向上につながり、生涯を通じて学び、成長していく糧になる。

 それぞれの学校や地域で、生き生きと学べる環境をどうつくるか。学力テスト見直しを、そのことを考える機会にしたい。

北海道新聞 2009年10月25日

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鳥取県教委、学力テストの市町村別・学校別結果を開示

 鳥取県教委は22日、これまで非開示としてきた2007、08年度実施分の全国学力テストの市町村別・学校別結果を開示した。07年度分について開示を命じた鳥取地裁判決が19日に確定したのを踏まえた措置。原告以外の請求者に対する過去の非開示処分もすべて取り消し、08年度分も開示対象にした。県教委は「司法判断を重く受け止めた」としている。09年度分は既に開示しており、過去3回分の結果がすべて明らかにされるのは全国で初めて。

 開示を受けたのは、報道各社や個人ら。今月2日の地裁判決前に非開示処分が出ていた6件と、判決後に請求された4件に対し、全19市町村別と、一部の小規模校を除くテスト参加校別の「国語」「算数・数学」の平均正答率が示された。

 県教委は昨年12月、開示請求者に対し「序列化や過度な競争が生じないように」と開示情報の扱いに配慮を求めた規定を情報公開条例に追加、今年9月に09年度分を開示した。今回開示した07、08年度分は、この規定の対象とならないが、県教委は「同様の配慮を求めたい」としている。

讀賣新聞 2009年10月23日

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鳥取が学力テスト結果開示 07、08年度分学校別も

 鳥取県教育委員会は23日までに、2007、08両年度に実施した全国学力テストの市町村別・学校別結果を開示した。県教委は09年度分も9月に開示しており、07年度に再開された学力テストで、実施された3回分すべての学校別結果が開示されたことになる。

 鳥取地裁が2日、07年度分について開示を命じたことを踏まえた措置で、08年度分も開示した。県教委は「司法判断を重く受け止めた」としている。

 県教委によると、開示を受けたのは報道機関や個人で、地裁判決前に請求して非開示処分が出ていた6件と、判決後に請求があった4件が対象。

 県内19市町村別と、小中・特別支援学校の国語、算数・数学のそれぞれの平均正答数と平均正答率が開示された。対象学年の児童・生徒が10人以下の学校は開示しなかった。

共同通信 2009年10月23日

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教員養成6年制/制度の改廃で成果上がるか

 文部科学省は本年度導入した教員免許更新制を来年度にも廃止し、養成課程を大学院修士コースを含めた6年制とする方針を固めた。教育は「国家百年の計」。教育の根幹にかかわる制度がくるくる変わるようでは、現場への影響が心配だ。

 見直しは民主党が衆院選で掲げたマニフェスト(政権公約)に沿っている。大胆な方向転換が提示されるのは当然としても、現行制度の検証もないままの朝令暮改は疑問だ。

 新制度では教員志望者に大学の学部卒業後、修士号取得を義務付ける。現行2〜4週間の教育実習は1年間に延ばし、教職への最初のハードルを数段高く設ける形になる。

 教員になる勉強をじっくり積むシステムには、一定の評価もあろう。あらかじめ高い素養を身に付けた意欲のある人に教職を目指してもらうという意図は分かるが、職業選択の幅を狭めてしまうことにならないか。

 6年制は教育先進国フィンランドを意識しているとされる。教職の社会的ステータスが高いフィンランドでは、教師は尊敬される存在で専門職として位置付けられてきた歴史がある。

 本年度の免許更新制導入の背景を見ても分かるように、日本では教員の適格性の欠如、指導力低下が強く懸念されてきた。それが今の教育界の現状だ。一足飛びに6年制に移行し、打開を図れる問題だろうか。

 不適格教員を生むことを恐れるあまり、多様な個性を切り捨てれば教育現場は画一化される。経験を積んで「良き教師」に成長する若者の可能性を摘むことになるのではないか。

 1年間の教育実習も、受け入れる学校側の負担、学生の労力を考えれば、制度化は容易でない。結果的に教職志望者が減ってしまう不安すら抱かせる。

 現職教員の質を高める対策としては、8年以上実務経験した人を対象に「専門免許状」を与える制度を新設する。(1)教科指導(2)生活・進路指導(3)学校経営―の各分野で一段高い職業能力の開発を図る狙いだ。

 これらの新制度は、全国に24校ある「教職大学院」を核にして進める予定で、文科省は都道府県ごとの教職大学院設置も検討するという。東北で現在開設されているのは宮城教育大と山形大。大学院教育の質と量を全国的に整えるには時間が要る。

 更新制導入による更新時講習と認定試験も、教員の能力向上を目指したはずだった。しかし、講習内容は実施する大学などに任され、試験の評価基準も一律ではない。制度が形(けい)骸(がい)化する不安が強くあり、廃止の論拠の一つだったことは確かだ。

 「多忙な現場の教師に負担を掛けるだけ」「日常的な研修制度の充実の方が有効ではないか」といった批判の声は当初からあった。しかし、新制度がこれらの疑問に対する的確な回答になっているようにも思えない。

 教育現場で教師の意欲と能力が、どう発揮されるかが最大の問題だ。制度をいじるばかりで本来の教育成果を引き出せなくなるのは本末転倒。先を急がず腰を据えた議論を望みたい。

河北新報 2009年10月23日

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教育費の負担 家計に頼るのは限界だ

 教育への日本の公的支出は経済協力開発機構(OECD)加盟国で最低レベルだ。それでも高い教育水準は家計が支えているから維持されている。もはや限界であり、公的負担を増やすしかない。

 OECDによると、日本は二〇〇六年国内総生産(GDP)に占める教育費のうち、国や自治体が支出した公的割合が3・3%だった。比較可能な二十八カ国のうちで下から二番目だから、不名誉な数字といえる。

 財務省は「日本は少子化が進んで人口に占める子供の割合が低いため、子供一人当たりの教育支出は少なくない」と反論する。たしかに、一人当たりでは日本は八千八百七十二ドルとOECD平均の八千八百五十七ドルを少し上回る。

 しかし、これは公私合わせた額だ。家計や企業などが負担した私費割合は33・3%で加盟国平均の二倍超。とりわけ、家計割合は21・8%と韓国に次いで大きい。

 日本は大学進学率が高く、学習到達度調査も上位にある。高い教育水準は家計によって支えられてきたといっても過言ではない。

 民主党は政権公約で「教育予算のGDP比5%以上」との目標を掲げ、来年度予算の概算要求には「高校授業料の実質無償化」などが盛り込まれた。公的支出を増やさなければならないが、財政状況が切迫している以上、どの施策に重点配分するかは吟味が要る。

 OECD調査では、日本の教育支出のうち私費負担は就学前教育で六割近く、高等(大学)教育で七割近くを占める。調査を受けてOECDは「日本は大学の授業料が高いが、奨学金などを受ける学生の割合が低い」と指摘する。

 高等教育への公的支出はGDP比0・5%と加盟国平均の半分しかない。能力と意欲がありながら経済的理由で大学へ行けなかったり、中退する学生がいる。

 有能な人材を育てられないのは社会全体の損失につながる。経済的に困窮している大学生への奨学金拡充は喫緊の課題だ。

 義務教育の学級規模をみれば、日本は小学校が二八・二人(加盟国平均二一・四人)、中学校が三三・二人(同二三・九人)という数字がある。OECDは「教員一人当たりの学級規模が大きく、これで教育支出が抑えられている」と分析している。

 日本の教員は受け持つ授業時間は短いが、勤務時間は長いというデータもある。現場にしわ寄せが及んでいるとすれば、教員増も急ぐべき施策の一つだ。

東京新聞 2009年10月20日

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教員養成 6年制は課題が多い

 教員の資質の向上を目的に本年度スタートした教員免許の更新制度が、来年度にも廃止される。鳩山政権の方針である。

 代わりに打ち出されたのが、教員養成課程の延長だ。現行の4年制に大学院2年を加えて6年制にする。早ければ2012年度に移行する方針という。

 免許更新制は、安倍内閣が07年に導入を決めた。10年に1度、30時間以上の講習を教員に義務づける。受講しないと免許を取り消されるため、先生たちは休日返上で講習を受けている。

 現場の負担が大きく、実効性にもかねて疑問が出ていた。廃止することに異論はない。

 教師の質を高めることにも賛成だ。ただ、それだけの準備もなしに、唐突に6年制を導入するのは考えものだ。教員を目指す学生や学校現場は戸惑う。

 鳩山政権の目指す教育政策の全体像がまだ見えない。先の総選挙も、教育費負担の軽減策が焦点となり、教育の中身に踏み込んだ論議は乏しかった。

 教育は社会の担い手をはぐくむ土台になる。10年、20年先も見据えたうえで、教育の質をどう高めていくのか。まずは全体の見取り図を描いてはどうか。教員養成の方向性は、そのなかにおのずと位置付けられる。

 6年制は民主党の政権公約でもある。構想では、志望者は学部を卒業した後、大学院で修士号を取得する。教育実習も1カ月程度から1年に延ばすという。

 真っ先に心配になるのは、教師を目指す学生の経済的負担が重くなることだ。民主党は大学生を対象にした奨学金制度を拡充する方針だが、財源も含めて中身を詰めるのはこれからになる。

 「出口」の問題もある。教員採用試験は「狭き門」だ。養成に6年を費やして、先生になれる保証がないとすれば、有能な人材が遠ざかってしまうおそれはないか。

 養成の受け皿の「教職大学院」も足りない。文部科学省は増設を検討しているものの、人材の確保をはじめ、急ごしらえでできることではない。

 そうした態勢を整えるまでは、まず現職教員の研修を充実させることだ。実際に教壇に立ち、子どもと向き合っている現場の教師が、力をつけられる環境にすることが大事である。

 社会人が教員になる道を広げることも効果的だろう。多様な人材が得られるうえ、人生にさまざまな道があることを、教師が身をもって示すことができる。

信濃毎日新聞 2009年10月20日

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教員養成6年制 教育力を向上するには

 文部科学省は教員免許制度を見直し、大学院2年を加えた6年制(修士)導入を検討する。教員の質向上を目的としている。学校現場の教育力をいかに高めるかという総括的な議論に深めてほしい。

 フィンランドなどの欧州では主流で、それをモデルにしているという。民主党が政権公約(マニフェスト)に掲げた教育改革で、2010年度に調査、早ければ11年にも新制度に移行する考えだ。

 文科省は全国24校ある教職大学院を各都道府県に最低1校設置したい考えで、指導教官の増員などにも財源確保が不可欠だ。

 教員の質向上に予算を割く必要性について、現状の問題点を洗い出す作業も含めて明らかにすべきだろう。

 学校は日々児童・生徒と向き合う職場のため、大学で学んだ学問をそのまま当てはめることはできない。現場感覚が求められる。

 新制度では教育実習を現行の2〜4週間から1年程度に拡充する。大学1年のときから実習を可能にして、小学校の入学児童を卒業するまで見届けるケースも想定しているという。

 志望者が卒業するまでに学校現場をよく見聞し、教育を職とするイメージを広げるトレーニングは大事だ。鈴木寛副大臣は「6年制にすればより強固な意志を持った人が教員を目指す。実習を受け入れる側の熱意も高まる」と期待する。

 反対論もある。学費負担が大きくなり、志望者が減るかもしれない。大学院へ進むとつぶしがきかない―などだ。

 民主党は奨学金制度の充実も政策に挙げているが、基本的にはそれも“借金”だ。欧州をまねるなら、思い切った学費助成や少人数学級の導入、画一的な教育でなく現場の裁量権を拡充させた新たな教育文化を構築すべきだ、といった指摘も当然だろう。

 教員の質向上を検討するには、現在の学校における教育実践力の点検も必要だ。

 現役校長からこんな嘆きを聞いた。「運動会や学芸会がバラエティー番組のような演出になる」。テレビではやりのにぎやかな踊りが学校の催しを席巻する。

 指導の手間はあまりかからないだろうが、表現力を磨くオペレッタなどと比べて教育効果はどれほど望めるのか。それを好む子どもの「主体性」という言葉に押し流される風潮はないだろうか。

 養成や採用後の研修を一体的に再構成し、職員間でも互いに刺激し合いながら教育の質を高めてもらいたい。

 自公政権が今年導入した「教員免許更新制」は、教員の力量アップにはつながらないとの批判もあり、廃止する方針だ。

 民主の免許制度改革には、現場で10年程度経験を積んだすべての教員が大学院などで1年程度の研修を受け「専門免許状」を取得することを事実上義務化する考えも含まれている。

 教育にも政権交代の風が吹きつつある。目指すべき教員像、学校環境、教育文化とは何か、明確なメッセージを発信してもらいたい。

沖縄タイムス 2009年10月20日

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【解答乱麻】教育評論家・石井昌浩 教員免許更新制の存続を

石井昌浩(元国立市教育長)  教員免許更新制、全国学力テストの見直しなど、新政権の教育政策転換が明らかになりつつある。30年間続いた「ゆとり教育」から「学力向上路線」へ転換したばかりの学校現場には新政権に寄せる期待と懸念が交錯している。

 去る8月下旬、ある私立大学で教員免許更新講習の講師をした時のことを報告したい。10年、20年、30年のキャリアを持つ現職教員を対象とする講習だけに入念な準備を重ねて当日に臨んだ。私が担当したのは道徳教育だった。その県は大半の教員が日教組に所属しているためもあって、道徳教育について不信感を抱く人が多いと聞いていたので、心なしか緊張していた。しかし、1日6時間の大変ハードな日程にもかかわらず、先生方の受講態度は真剣そのものだった。質問も数多く出され、戦後の学校教育の中で事実上タブーとされ触れられることのなかった、道徳教育の近代史の秘められた真相について受講者間の共通理解が深められたと思う。

 講習が済んでから提出された感想文には「今まで知らなかった事実の多さに驚いた」「道徳教育について自分が消極的だった理由が分かった。これからは新たな構えで子供たちと向き合いたい」など、先生方が自信と誇りを持って教壇に立つ意欲が湧いたという趣旨のものが多かった。

 正直なところ私は、直前まで免許更新講習は「屋上屋を架(か)すもの」にならないかと危惧(きぐ)していたが、実際に担当してみて認識を改めた。今までの市町村や都道府県の現職研修とは内容面でレベルの違う、刺激に満ちた講習が実施できたと自負している。教師の指導力を向上させるためには、多面的な研鑽(けんさん)を積むことの重要性を改めて認識させられた経験だった。

児童・生徒の学びを保障するためには何よりまず、教師自らが学び切磋琢磨(せっさたくま)することが欠かせない。2年前の自民党の教員免許法改正案の講習時間は30時間なのに、民主党提出の「学校教育力の向上3法案」では100時間の講習の義務付けを規定していた事実からも、教師のライフステージに応じた研鑽の重要性は明らかである。始まったばかりの免許更新制は廃止することなく、改善を重ねた上で存続させるべきである。

 次に新政権は、全国学力調査について、現行の全員参加方式をやめ抽出調査に切り替える意向と報道されている。

 日教組等は、学力に関する実態を把握するのには、現行の教育課程実施状況調査の改善・充実で十分としている。しかし、この調査は、主に学習指導要領の定着状況の把握を目的とする抽出調査であって代替できる内容ではない。

 全国学力調査は、全国的な教育水準を確保すると同時に、各学校において、教師、児童・生徒が取り組むべき個別の改善課題を明らかにすることを本来の目的としている。現に、学力調査の結果をもとに、授業改善の具体的な実践を開始している学校は多い。来年は、3年前に小学6年生だった生徒が、中学3年生となり調査に参加することになる。3年間の学習の成果を検証するための願ってもない機会なのだ。全員参加方式の継続を強く希望したい。

産経新聞 2009年10月19日

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教員養成6年制 延長より先にやることが

 文部科学省は、4年制大学卒業で教員免許を与える制度を見直し、大学院の2年を加えて6年に延長するという方針を固めた。

 民主党がマニフェスト(政権公約)に6年制導入を掲げていた。実現に向けて動くのは新政権としては当然のことだろう。

 しかし、一般教員にも医師並みの養成期間を必要とする大胆な改革である。国民の理解を得ながら丁寧に進めていかねばならない。

 問題は多い。とりわけ学部の4年間ではなぜ不十分かについて、分析と説明がないことだ。時間をかければ質の高い教員が育つ可能性は高い。だが、それは絶対条件なのか。その疑問に文科省はしっかりと答える必要がある。

 6年制の受け皿と想定されるのは全国に24校ある教職大学院だが、修了者は毎年800人程度にすぎない。

 公立の小中高校だけでも年2万人の教員を採用している。文科省は大学院を各都道府県に設置していく方針だ。新たな費用が発生する。

 国際学力調査でトップクラスのフィンランドも、教員資格を得る条件に修士課程修了を課している。質の高い教員の存在が、学力向上につながる一例を示している。

 教員には修士資格が要るとの考えがフィンランドを倣ったものならば、少人数教育で自治体や学校現場に教育の裁量が任されている点も忘れてはならない。先生がのびのびと自由に教える環境を整えるのが先ではないか。

 新政権は相次いで、教育関連政策の見直しを打ち出している。ことしスタートしたばかりの教員免許更新制は来年度にもやめるという。

 導入の際、学校現場を窮屈にするなど批判があった免許更新制を廃止するのは妥当な判断といえよう。小学6年生と中学3年生全員を対象に、毎年実施してきた全国学力テストも抽出調査に変更することになった。

 だが、免許更新制をやめる一方、教員の質を高める方策として、「専門免許状」を新設する方針だ。10年程度の教職経験者を対象に「生活・進路指導」「学校経営」などで能力を評価して与えるというものだ。

 前政権が教員の質向上を目的につくった二つの政策のうち、免許更新制はストップし、教職大学院は拡充させる。新政権の一連の教育改革は、中途半端な感が否めない。民主党の支持基盤である日教組と文科省の言い分を足して二で割ったようにも映る。

 よりよい教育のために不都合な制度を改めることは当然だ。だが、教員の過労自殺が当たり前のようになっている現状を変える方策こそ考えたい。先生と子どもが生き生きと学校で過ごす。これが改革の原点のはずだ。

新潟日報 2009年10月19日

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児童扶養手当 当然の父子家庭への拡大

 厚生労働省が、所得の低い母子家庭に支給している児童扶養手当を、低所得の父子家庭にも支給する方針を固め、2010年度の概算要求に盛り込んだ。

 民主党は衆院選のマニフェスト(政権公約)に同方針を明記していた。雇用情勢の悪化など、一人親家庭を取り巻く厳しい環境に照らせば、父子家庭への拡大の方向性を示したことは当然の転換と言える。

 対象は、父親と子ども1人の場合、給与収入が365万円未満の世帯。年収130万円未満の世帯には、子ども1人に満額の4万1720円が支給される。現段階では要求額が示されていない「事項要求」だが、厚労省は支給対象家庭を約10万世帯と見積もっている。

 これまで、厚労省は「父子家庭と母子家庭では年収に差がある」などとして、父子家庭への同手当の支給に難色を示していた。

 確かに父子家庭は母子家庭の約2倍の年収があるとされるが、この数字はあくまで平均値だ。

 厚労省の調査によれば、年収300万円未満の父子家庭は全体の37・2%、100万円未満の家庭も4%存在する。

 一人親になった後、5%の父親が常勤から非正規社員となっているという実態もある。幼い子どもの世話をするため、勤務時間に融通の利く職業を選択せざるを得なかった人も少なくないはずだ。

 父子家庭の貧困は、母子家庭同様、親の貧困であると同時に、子どもの貧困と言える。それは国の将来を左右しかねない深刻な課題である。

 経済的に「弱い家庭」に育った子どもが大人となり、同じような「弱い家庭」をつくる「貧困の固定化」を食い止めなければならない。
 児童扶養手当はこれまで、母子家庭の命綱と呼ばれてきた。その制度の父子家庭への拡大は歓迎すべきことだが、それだけで子どもの貧困が解消されるわけではない。

 すべての子どもたちが受けるべき最低限の生活と教育を保障していくためには、子ども手当などのほか、一人親家庭の税負担の軽減などさらにきめ細かな支援が必要だ。

 経済的支援だけでは足りない。父親による育児の社会的な理解も進んだとは言い難い。父親が仕事と子育てを両立できる環境づくりも、同時に進めていかねばならない。

高知新聞 2009年10月19日

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政権交代、揺れる教員制度 現場や大学に戸惑い

関西大学が実施している「現場で学ぶ社会科・地理歴史科のフィールドワーク」講習=18日、大阪市西区、日吉健吾撮影
 民主党政権の誕生に伴い、自公政権による教育改革の柱として今年4月に始まったばかりの「教員免許更新制」が来年度限りで廃止される見通しになった。民主党は新たに、現在は4年制大学卒業で教員免許を与えている養成課程を、大学院(2年)も含めた6年間に延長する検討を始めた。「大切な教育制度がころころ変わっていいのか」。教育現場や大学側に戸惑いが広がっている。

     ◇

 大阪市此花区のJR西九条駅に18日、大阪府内の小中学校などの教員12人が集まった。関西大が開いた教員免許更新の実地講習だ。

 「現場で学ぶ社会科・地理歴史科のフィールドワーク」。地形図を片手に大阪市内を歩き、等高線や地図記号を確認した。児童生徒に地図の見方を学ばせる手がかりにする狙いだ。熱心にメモを取る教員は「講習は勉強になるけれど、教員免許更新制は疑問だった」と漏らした。

 教員免許更新制は、09年4月以降の教員免許に10年間の有効期限を設け、それ以前に免許を取得した人も35、45、55歳と10年ごとに30時間の講習を大学などで受けるよう義務づけた。「最新の知識・技能の習得」が目的で、講習の最後には試験もある。

 約3万円の受講料は参加者の自己負担。文部科学省によると、今年度の受講対象者は8万5487人。このうち5万1千人余りが、5月末までに受講を申し込んだという。

 7月下旬、徳島県内の私立大で2日間の講習を受けた同県立高校の男性教諭(43)は「受講者の居眠りが目立った。効果は疑問だ」と振り返る。この教諭が受講したのは、必要な計30時間のうち18時間分。部活動の付き添いなどを優先させたためだ。

 兵庫県北部の小学校の女性教諭(54)は、近所に講習を開いている大学がなく、夏休み中に車で数時間かけて遠方の大学に通った。「着いた頃にはへとへと。内容も頭に入らなかった」

中国地方の国立大教育学部のある准教授が8月下旬に開いた更新講習。「政権交代になれば、この講習もどうなるか分かりません」と切り出した。准教授は「現場の教員は精神的に疲れ切っている。ゆとりを持って仕事が出来る環境を作る方が、児童生徒にもプラスでは」と話す。

 民主党は、免許更新制を廃止する方針だが、大学などでの受講を教員に引き続き求める構えだ。更新制で講習を受けた教員については、将来設定される予定の「専門免許状」を取る際の単位に振り替えることを検討する。

 しかし、兵庫教育大の担当者は「免許更新制のように義務化しなければ、受講者は激減するだろう。制度がめまぐるしく変化し、先が読めない」と嘆く。関西大の楠見晴重学長は「講習内容をきちんとフィードバックしていく先生もいる。受け皿はきちんと整えたい」と話す。

     ◇

 民主党が教員養成6年制の「受け皿」の一つとして想定しているのが、専門職大学院の教職大学院だ。

 「民主党の6年制案を先取りした」。そう胸を張るのは、福井大教職大学院の寺岡英男教授(教育方法学)だ。同大は08年、教職大学院を設立。1年間の教育実習を院生に課している。寺岡教授は「教員の質向上に効果が望めるので、修士課程の活用は必要なこと。しかし、教職の志望者全員に修士課程の修了を義務づけるのは、現状では難しい」と話す。

 教職大学院は福井大を含めて全国24カ所にあり、修了者は年800人程度。一方、教員採用者は公立小中高校だけで年約2万人に上り、とても同大学院だけではまかない切れない。

 立命館大の教職志望者は年約750人。同大の春日井敏之教授(臨床教育学)は、志望者の減少を心配する。時間もお金もかかるため、大学院進学が敬遠され、民間企業に優秀な人材が流れてしまう懸念が捨てきれないという。春日井教授は「質の高い教員を育てるという6年制の理念や必要性は分かるが、一律に始めるのは弊害が大きい。現場の声を聞き、制度設計を丁寧にやってほしい」と訴える。

近畿地方のある国立大学は、教職大学院設置の検討を始めた。しかし、担当者は「そもそも民主党政権が続くのか。もし自民党に政権が戻ったら、教員免許更新制と同様に、6年制も白紙になるのでは」と心配する。

 教育実習を1年程度に延長することも、簡単には進みそうにない。大阪教育大の島善信教授(教育学)は「ただでさえ忙しい学校現場は1カ月でも大変。1年間なんて受け入れてもらえず、現状では無理だろう。理念はわかるが、現場に即した具体的な対策が必要だ」と指摘する。(八木正則、相江智也)

     ◇

■民主党が検討する教員制度改革

・教員免許更新制を2010年度限りで廃止。その代わりに、10年程度を経た教員に大学院などでの研修を課して、「専門免許状」を交付

・大学院修士課程修了を教員免許の取得条件とする「養成課程6年制」の導入

・現行2〜4週間の教育実習を1年間に拡充

朝日新聞 2009年10月18日

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国歌不起立判決 教師の規律違反は許すな

 卒業式の国歌斉唱の際に起立せず、定年退職後の再雇用が認められなかった東京都立高校の元教師が、都に損害賠償などを求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は元教師の訴えを退けた。

 1審の東京地裁は訴えを一部認め都に賠償を命じていた。これを破棄し、不採用を適法とした東京高裁の判決は当然である。

 この元教師は平成16年春、勤務先高校の卒業式での国歌斉唱で起立せず、戒告処分を受けた。その後、19年に定年退職後の嘱託としての再雇用で不合格となった。元教師側は、日ごろの教育指導は熱心であり、不起立による処分を理由に不合格となったのは違憲・違法と主張していた。

 しかし、卒業式は保護者や来賓も出席して生徒の門出を祝う重要な学校行事である。指導すべき教師があえて起立せず、妨害するような行為こそおかしい。高裁判決も「厳粛な雰囲気で行われるべき卒業式での不起立は影響力の重い行為」と指摘した。

 訴訟では、卒業、入学式で教職員が国旗に向かい起立し、国歌斉唱することを求めた都教育委員会通達とそれに基づく校長の職務命令の合法・合憲性も争われた。

 判決は思想、良心の自由を侵害することにはならないとし、「個々の教諭が自己の心情や信念のみに従って行動したのでは、学校教育は成り立たない」とした。すでに最高裁は国歌斉唱のピアノ伴奏を拒否した教師の訴訟で、「(校長の職務命令は)憲法違反ではない」との判断を示している。

 それにもかかわらず国旗・国歌をめぐり処分を受けた教師が思想信条の自由などを争点に訴訟が繰り返されるのは問題だ。特定の政治的主張をしたいなら教育の場を離れてからにしてもらいたい。

 愛国心育成や道徳教育などをめぐっては教育現場で日教組などの一部組合員の反発が根強く、国旗掲揚、国歌斉唱を妨害する行為が依然としてある。

 しかし、新しい学習指導要領では小中学校で国歌を歌えるよう指導することが明記され、高校を含め道徳教育の充実が盛り込まれているのである。

 民主党政権は来年度予算の概算要求で、小中の道徳の副教材の全員配布をやめるなど日教組寄りの姿勢が危惧(きぐ)される。規律を尊び、公共心を養うことは、公教育には欠かせない。国民も教師の規律違反に厳しい目を向けるべきだ。

産経新聞 2009年10月18日

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全国学力テスト 性急な見直しは禍根を残す

 小学6年生と中学3年生を対象に、全員参加方式で実施されてきた全国学力テストが、わずか3年間で抽出調査に変更される見通しとなった。性急な見直しは疑問だ。

 文部科学省は来年度予算の概算要求で、実施費用として今年度より21億円減の36億円を計上した。学級単位の抽出調査とし、全体の40%で行う。調査対象外でも、小中学校の設置者である市町村などが希望すれば参加を認める。

 全国学力テストは1960年代にも全員参加方式で行われたが、日本教職員組合の反対闘争で中止を余儀なくされた。しかし、2004年に公表された国際学力調査の結果、学力の低下が浮き彫りになり、復活の機運が高まった。

 このため、専門家らが実施方法を検討し、再三の国会審議も経て07年に43年ぶりに復活した。

 日教組を支持母体に持つ民主党は、総選挙前から、予算の無駄遣いを検証する「事業仕分け」で学力テスト見直しを掲げていた。

 だが、新政権発足後、専門家の意見を聞いたのは実質2日間だ。復活までの多様な議論に比べ、あまりに拙速ではないか。

 そもそも学力向上への打開策として打ち出した政策を、「費用対効果」に重点を置いて見直すのは短絡にすぎる。しかも、削減できる予算は、20億円余りである。

 政権公約で掲げた高校の授業料無償化の予算は、4500億円に上る。所得に関係なく授業料分を一律に助成するのをやめれば、学力テストの削減分は捻出(ねんしゅつ)できる。公約に固執すべきではない。

 学力テストは、都道府県別結果が公表されたことで、下位の沖縄県が上位の秋田県と教員の交流を始めるなど、各地の取り組みが緒に就いたばかりだ。

 全員参加で児童生徒や保護者、学校の学力向上への意識が高まり、それぞれの課題が把握しやすくなる。学校や市町村が結果を公表し、保護者や地域住民と共有すれば、協力も得やすい。

 来年は、07年に小6としてテストに臨んだ子どもが、中3として受ける番だ。どんな勉強によって学力がどう変化したか。予定通り実施すれば、詳しく分析して今後の指導に役立てられるはずだ。

 公立校では参加を望んでも、市町村が参加しないと、受けられない懸念も残る。

 一方、実施科目は現在、国語と算数・数学だけだが、拡大が検討されている。妥当ではないか。

 これまでの議論を踏まえ、国会でも十分審議してもらいたい。

讀賣新聞 2009年10月18日

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道教委対応 NIEへの無理解を露呈

 小学校、中学校、高校などの教育現場で新聞を活用するNIE(Newspaper in Educationの略)の取り組みに水を差す出来事が北海道で起きた。

 帯広市内の道立高校が衆院選をテーマにした公民の授業の際、参考資料として「北海道新聞」の社説を使ったことに対し、道教委が「1紙だけでは偏った認識を持たせかねず不適切」として、全道立高校を対象に実態調査を指示したのである。

 子どものころから新聞の閲読を習慣付け、自分自身で物を考え、判断する力を養うことがNIEの目的の一つだ。その意義は、多くの教育関係者から高く評価されている。

 授業に使用されたのは公示日の社説で、衆院選の意義を論じる内容だ。特定の政党に偏ったものではない。

 インターネットを含め玉石混交の情報がはんらんする中で、メディアが伝える内容をうのみにせず、批判的に読み解く力を養うのもNIEの眼目とするところだ。

 もとより論説には何らかの主張がある。これを熟読させ、生徒自身の視点で考察・評価させる意義は大きい。1紙だけを教材として活用したとしても、問題にすべき点は何一つない。

 まして公示日の北海道新聞の社説は公正公平な立場で書かれている。「偏った認識を持たせかねず不適切」という批判は、全くの言い掛かりであり、NIEに対する認識不足を露呈したものだ。

 現実には、個人で購読した新聞を授業に役立てている教師も少なくない。1紙だけでは駄目というのなら、社説を授業に取り入れることはできなくなる。

 本来、反面教師とすべき道教委のような姿勢が他県に広まれば、NIEに熱心に取り組んでいる全国の教師たちを萎縮(いしゅく)させる。授業に新聞を活用することを避ける教師も出てくるのではないか。

 そもそも、道教委が調査を実施したのは自民党道議から指摘されたためだという。それこそ教育現場への政治介入であり、看過できない。

 教育界、新聞界が協力し社会性豊かな青少年を育成するというNIEの趣旨が、政治的な思惑でゆがめられたのではたまらない。

 15日から1週間は新聞週間だ。この機会に、北海道教委はNIEの意味について理解を深めてほしい。

琉球新報 2009年10月18日

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教員養成6年 何を目指すのかを語れ

 教員の質向上のため大学院修士課程修了を教員免許の取得条件にし、養成課程を6年にする。民主党政権が進める方針に波紋が広がっている。総選挙マニフェストで方向は明らかにしていた政策の一つだが、細かな設計は未定だ。現場の意見聴取や論議に時間をかけ、関連法案を11年にも通す腹づもりという。詰めるべき条件や問題点は多い。

 教育現場からこんな疑問、懸念の声が上がる。

 延長は教職志望の意欲をそぎ、また学生の経済負担も増して、優秀な学生をむしろ減らすことにならないか。今でも多くの地方で教員採用試験は難関で、6年勉強して教職になれなかった場合を考えると学生は不安だ。これまでの学部の教育内容を改善・充実させるのが先決で、単なる延長では解決策にならない。

 また、「教師力」は本来現場の豊富な経験で鍛えられるもので、座学より早く教室に立つべきだという考え方もある。

 このため6年制案では、現行2〜4週間の教育実習を1年程度に拡充する。さらに大学1年生の時から実習を可能にして、小学校の入学児童を卒業学年まで見守るようなケースも理想として考えるという。

 また自民党政権が導入したばかりの免許更新制度に代わって、10年程度を経た教員に大学院などでの研修を課して専門免許状を出す構想だ。

 これに伴い「受け皿」として教職大学院の大幅増設、指導教官の質・量、そして財源の確保が必要となる。カリキュラムも全面的に組み直されなければならない。

 その大前提に、こうした大きな改革によって新政権はどんな教育成果や人材育成を目指すのかを語るべきだ。本来そこが最も肝心なのだ。

 政権交代の結果、既存制度に大なたが振るわれ、官僚色を極力排した「政治主導」の新政策が推進されるのは当然だろう。文部科学省でも今週開かれた教育現場の実情を聞く会で政務三役が官僚抜きで会を進行し、様変わりを印象づけた。

 その席でも指摘されたが、教育現場の実情と文科省の認識、情報には従来ずれがある。例えば、いじめ自殺問題や教員採用の不明朗さなどでは対応の遅れにそれが端的に表れた。その教訓を生かし、常に現場の実情に照らした政策判断ができるような体質転換を望みたい。

 教員養成6年制問題はその試金石でもある。オープンな論議を積極的に展開してほしい。それで何を目指すのか。これまで中央発信の教育政策はいわば通達行政で、理念や目的は何かというところまで論議を高めていく経験も発想も乏しかった。

 絶好の機会と考えたい。

毎日新聞 2009年10月17日

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学力テスト縮小 不安な日教組寄りの転換

 川端達夫文部科学相は来年度から全員参加の全国学力テストをやめ、抽出方式にすることを決めた。復活してまだ3年目で、成績上位の自治体、学校に学ぶなど効果が出始めたばかりだ。廃止は早計である。

 代わりに教科や対象学年を広げるというが、抽出方式の学力調査はこれまでも行われている。専門家も指摘するように抽出方式では参加しない学校、児童生徒は課題が分からず、意欲も削(そ)がれる。学力向上策として不十分だ。

 全国学力テストは昭和30年代に日本教職員組合(日教組)が、教師の勤務評定とともに激しい反対運動を展開し、中止された。このときも抽出方式に縮小され、全国レベルで自分の成績を把握する手段がなくなった。失敗を繰り返してはならない。

 ゆとり教育で学力低下が批判され、自治体独自に学力テストを行うケースが増えていた。首長の中からも全国学力テスト存続を求める要望が出ている。

 川端文科相は抽出方式にする理由として「成績を上げることだけを競争するやり方には意味がない」とも言った。学力向上に競争は必要で、この発言も疑問だ。

 先ごろ、鳥取地裁は市町村・学校別成績の開示を認めた判決で「序列化などの問題は生じておらず、開示しても過度な競争の恐れは乏しい」と判断した。

 政府の規制改革会議の調査では、保護者の約7割が学校別の成績公表を望んでいる。過度の競争が起こるというのは杞憂(きゆう)で、成績が悪いと批判されるのを恐れる教師や学校の言い訳にすぎないのではないか。全国学力テスト復活後、秋田と沖縄の教員交流が始まり、大阪では知事の号令によって学力向上に取り組んでいる。こうした競争を歓迎したい。

 民主党政権の教育施策は、ほかにも教員免許更新制を廃止するなど日教組の主張に沿ったものになりつつある。競争や評価を嫌うのは教育改革の妨げだ。

 教師にはいま、子供の意欲を引き出す豊かな人間性や洞察力が求められている。10年ごとの免許更新制は独りよがりの授業をしていないか、ベテラン教師も指導法を見直す機会として有効だ。

 教員養成課程6年制については、教育関係者からも反対がある。大学院を無駄に増やし、頭でっかちの教師ばかりつくることになるのではないか。

産経新聞 2009年10月16日

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全国体力調査 運動の習慣織り込もう

 小中学生の体力は向上の兆しがみられるものの、ピーク時だった1980年代半ばに比べると、依然として低い水準にある。

 文部科学省が発表した2008年度の体力・運動能力に関する全国調査からは、体力向上に伸び悩む子供たちの姿がうかがえる。

 体力や運動能力は一朝一夕に改善するものではないだろう。息の長い取り組みが求められる。

 スポーツの秋。体を動かすには絶好の季節だ。それぞれの年齢、体調に応じて無理をせず、生活の中に上手に運動習慣を織り込みたい。

 調査は東京五輪が開催された64年から継続して行われており、世代ごとの体力水準の変動も把握できる。

 昨年時点で20歳、35歳、50歳の各年齢層ごとの体力の推移を比較したところ、35歳、50歳の人たちが若かったころと比べ、20歳の世代は握力、持久走とも劣っていることが分かった。

 今後、20歳の人たちが年を重ねていくと、現在の中高年よりも体力が劣ることが予想されるという。若い時に運動習慣を身に付けることの大切さを示していると言えよう。

 子供の体力低下は、80年代後半以降に始まった。

 原因として、テレビゲーム機の普及による室内遊びの増加、受験競争の低年齢化など、友達同士が集団で外遊びをする習慣が減ったことを挙げる専門家もいる。

 また、そのころから民間のスポーツ教室などに通う子供も増えており、運動する子としない子の二極化が指摘されてきた。

 経済不況の影響で親の経済力の差が広がり、教育格差の拡大が問題となっている。体力面でも格差が広がるようなことがあってはならない。

 お金がかからず、気軽に運動し、汗を流すことのできるスポーツ環境の一層の整備が必要だろう。

 自由にキャッチボールができ、サッカーボールをけることができる広々とした公園がもっと欲しい。学校の校庭の芝生化にも積極的に取り組むべきではないか。

 調査では、男女とも40歳以上は体力が向上する傾向にある。高齢化が進む中で、中高年層の体力づくりをさらに進めたい。

 スポーツ普及の効果は、体力・運動能力の向上にとどまらない。

 適度な運動は生活習慣病の予防になり、家計の医療費支出を減らすことにもつながる。用具や施設、栄養食品など健康・スポーツ関連産業のすそ野は広い。

 行政も縦割りではなく、横断的な連携が必要だ。国には広い視野に立った総合的なスポーツ政策の充実が求められる。

北海道新聞 2009年10月16日

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教員養成6年制 志望者が減少しないか

 教員の資質向上策として養成期間を六年とし、修士号取得の義務化が検討されている。大学院を増やさなくてはならず、学生には時間と学費の問題が生じる。教員志望者が減ることにならないか。

 民主党は教員養成課程についてマニフェストで「六年制(修士)とし、養成と研修の充実を図る」と記しており、川端達夫文部科学相は就任直後に「着手は早速にさせたい」と述べていた。

 新制度は大学卒業後に大学院で修士号を取得させるほか、教育実習を一年間通して行うことなどが検討されている。

 六年制は教育先進国とされるフィンランドなどをモデルにしたようだ。大学院教育を施し、教員の質を高めるとの狙いは分かるが、免許取得までに医師並みに六年かかる問題は決して小さくない。

 まず、養成機関が整備されていない。文科省は「教職大学院」の活用を考えているようだが、現在の修了者は年千人に満たない。一方で教員採用者数は公立小中高校だけでも毎年二万人にのぼる。

 教員養成の大学院を各地に一気に増設しなければならなくなるだろう。大学院教育の質を保証しつつ、カリキュラム編成や指導教授の確保は可能なことなのか。

 なにより、教員を目指す学生には現行に比べ、大学院の学費と二年の時間がかかることになる。

 六年がかりで勉強しても教職は多忙なわりに収入が見合わない。免許を得ても採用されなければつぶしが利かなくなる。若者はそんな懸念を抱くのではないか。

 教員の待遇が変わらないままで養成六年制に移行すれば、教員志望者は減少するにちがいない。

 本年度から始まった教員免許更新制は来年度限りで廃止される見通しだ。導入目的が不明、講習内容が乏しいと批判が多く、廃止は妥当といえよう。しかし、それに代わる制度が六年制では愚策を繰り返すおそれがある。

 喫緊の課題は教員が子供と向き合う時間を確保し、教育に集中できる環境づくりであり「教員数の充実」を優先すべきだ。

 いまは、教育学部などで四年間の課程を修めるほか、文学部や理学部などであっても教職課程を履修すれば教員免許が取得できる。「開放制教員養成制」といい、人材の多様化につながっている。

 大学院で画一的に教員養成するよりも、社会人採用を広げたほうが、より速やかに数の充実や質の向上が図れるのではないか。

東京新聞 2009年10月16日

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子ども手当 スピード感のある対応を

 鳩山政権が国民に約束した目玉政策「子ども手当」は、いつからどんな形で実施されるのか、政府内の発言がぶれている。子育て支援は、雇用対策と同じぐらいの重みを持つ緊急課題だ。金看板と言うのなら、実行に移すスピード感が問われる。

 支給時期はもともと、来年夏の参院選前と見込まれていた。長妻昭厚生労働相も「来年の通常国会で議論してもらえば、6月支給には間に合う」と、早期の実施には否定的だった。

 その後、2009年度第2次補正予算の編成に言及した鳩山由紀夫首相は、年度内実施について「全く否定はしない」と述べ、前倒しの意欲をにじませた。すると今度は、平野博文官房長官が「準備期間が要る。6月後半に支給したい」と、首相発言の打ち消しに回った。

 10年度予算の財源捻出(ねんしゅつ)に向け、各省が厳しいやりくりを行っている最中の発言とはいえ、政権内で腰が据わっていない印象を受ける。実施に向け明確な道筋をつけられないのは、財源が固まっていないからだ。

 子ども手当の初年度所要額は2兆7千億円。11年度からは2倍になる。厚労省は、支給対象に親の所得制限を設けず、全額国庫で負担することを決めている。しかし、特別扱いなしの歳出抑制を掲げる財務省との折衝によっては、所得制限を課す可能性もあるとみられている。

 財務省は、所得税の扶養控除を10年度から廃止し、そのまま子ども手当の財源に充てることも検討し始めている。さらに、厚労省は、前政権が09年度補正予算に計上した「子育て応援特別手当」(3〜5歳対象、1254億円)の支給を停止し、補正削減額の積み上げを優先させることを決めた。

 特別手当は、全国の市町村が年末から来年3月にかけての支給に向け準備に入っており、反発は必至だ。政府は、この手当が「無駄遣い」で、来年度からの子ども手当が正当な支援だという根拠を示す必要がある。

 「子どもの成長は社会全体で支えていくべきもの」という理念が、政権内で共有されているのだろうか。財源確保に汲々(きゅうきゅう)として身動きが取れないようでは、国民の理解は得られまい。

 子ども手当は、負担が重い子育て世帯に対する即効的な生活支援策として国民に受け入れられた。親の所得格差で、まともな保育環境や教育が与えられていない子どもたちをいち早く救済する政策であったはずだ。

 その原点に返れば、所得制限を設け、所要額を縮小した形で早急にスタートすることも視野に入れるべきではないか。たとえ数カ月の違いでも意味はある。中学卒業までのすべての子どもが対象というインパクトは、それほど大きい。

 少子化・子育て対策は、直接的な家計支援だけでは進まない。待機児童解消のための保育所の増設や、仕事と育児との両立支援策とも効果的に連動させなければ意味がない。

 新政権の公約で最も象徴的な子ども手当を、まずは早く形にして見せてくれることが国民の信頼につながるのではないか。

河北新報 2009年10月15日

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学テ抽出方式 本県の方針を明確に

 小6と中3全員に毎年実施している全国学力テストが、2010年度は一部の学校に絞る抽出方式で実施されることになった。

 検討されていた「テスト科目の増加」「対象学年の拡大」「毎年実施を隔年にする」については時間の制約から11年度以降に見直しを先送りした。

 規模を全員参加から大幅に縮小することで、約58億円から30億円程度への事業費の削減が見込めるという。限られた教育予算から巨費を投じ、全員参加で継続することの意義を疑問視する声は当初からあった。

 抜本的な見直しに至った要因として、実施に伴う「弊害」の大きさが挙げられる。

 一部の学校が事前対策に乗り出したり、秋田県の知事が地元の反発を無視する形で市町村別データの公表を強行するなどの問題が次々と浮上した。

 学テ実施が決まった直後に現場から上がった「結果を意識し、過度の競争をあおる」との懸念は、現実のものとなっている。

 川端文科相は「地域ごとの教育水準を調べるには抽出方式で十分」との認識を示している。このことは、私たちもこの欄で何度も主張してきた。

 2007年に再開するまで、40年以上にわたり学力テストが中断していたのも、「コンテスト化」を招いたという苦い教訓があるからだ。11年度以降の対応についても、本来の趣旨と離れることのないよう配慮を求めたい。

 「弊害」が大きくなった要因の一つに、「情報公開」の流れという時代背景がある。

 文科省は学テの実施要領で都道府県別より詳細なデータ開示を禁止しているが「公教育はプライバシーを除き公開が原則」などとして一部の府県教委は市町村別データを開示した。ルールは既に形骸(けいがい)化している。

 抜本的な見直しを支持する意見が多い一方で、「子どもや学校の個別の課題を見いだすのに、抽出では意味がない」「学校教育は朝令暮改になってはいけない」といった疑問の声もある。

 本県の尾ア知事も「本県の学力向上は明らかに途上」として、対策を講じる上で、全員参加による学テ継続の必要性を強調する。
 悉皆(しっかい)調査には言うまでもなく予算と現場の労力を要する。本県の方針を明確にするためにも、開かれた議論を深める必要がある。

高知新聞 2009年10月15日

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教員養成制度:民主新制度、教員養成課程6年に 経験10年で1年研修

 民主党政権が導入する新たな教員養成制度の概要が分かった。大学院修士課程(2年)の修了を教員免許取得の条件とし、養成課程は計6年に延長。教育現場で実習する総時間を現行の2〜4週間から1年程度に増やす。また、10年程度の現場経験を積んだすべての教員が、大学院などで1年程度研修を受け「専門免許状」を取得することを事実上義務化する。早ければ11年にも関連法案を成立させ、新制度に移行する。

 鈴木寛副文部科学相は14日の政策会議後、報道陣に「来年度、教育現場と教員養成現場から意見を聞き、相当精力的に検討する。拙速にはしない。教員に不安を与えないようにしたい」と話した。

 10年ごとに教員に30時間の講習受講を義務付ける教員免許更新制度は、今年度スタートしたばかりだが、新制度移行後は専門免許制度に吸収される。鈴木副文科相は「(受講の実績は)専門免許取得時に単位換算するなどの配慮をする」との方針を示した。

 新制度の核になるのは全国24校の教職大学院。教育学部だけでなく他学部卒業生も受け入れ、実習を中心とした2年間のカリキュラムを組む。

 教育現場での実習は大学1年の段階から長期的に実施できるか検討する。「小1で出会った子が小6になるまで成長を見守るのが理想」(鈴木副文科相)という。

 教職大学院は現職教員再教育の場にもなる。専門免許は「学校経営」「教科指導」「生活・進路指導」の3種を想定し、各コースで高度な実務能力を養う。文科省は47都道府県に教職大学院を最低1校設置したい考えで、指導教員確保や能力向上、カリキュラム見直しなどを急ぐ。来年度実施予定の更新講習は縮小せず、3コースを意識したものへの変更を促す。

 民主党は「教員の質と数の充実」をマニフェストに掲げたが、教職員定数について文科省は、来年度概算要求に5500人の増員を盛り込むことを決めた。前政権下で8月に行った要求と同じ人数。今後、11年度以降の大幅増員と少人数学級の実現を目指し、複数年度にわたる定数改善計画を策定し、採用のあり方も抜本的に見直す。【加藤隆寛】

 ◇「金持ちだけ先生に」/「強い意志、質高まる」
 教員養成期間の2年間の延長には、教員志望の学生や採用する側の教育委員会などから「負担が大きい」「教員希望者が減るのでは」と懸念する声が上がっている。

 早稲田大学の教員志望者でつくるサークルの代表で、教育学部3年の豊田昂希さん(21)は「6年間に延ばして何を学ぶことになるのかも、はっきりしない。現在の学部の教育の質を高めることが先決ではないか」と疑問を示す。同じサークルで1年の柴田直樹さん(20)は「経済的負担が増えることが心配。金持ちだけが先生になれるということになれば問題だ」と指摘する。

 東京都教委も「採用後4年間、一人前の教師に育てるための独自の研修システムがすでにある。今のままで十分」(選考課)と延長に否定的な立場。団塊世代とその直後の世代の教員が今後10年間、毎年2000人以上退職する都教委にとって、教員の確保はただでさえ懸念材料だ。「教育学部を避けたり、教員になることをあきらめたりする学生が増えれば元も子もない」と語った。

 鈴木副文科相は、志望者が減少するとの指摘に対し「年10万人強が免許を取得し、実際教員になるのは2万人強。6年制にすればより強固な意志を持った人たちが教員を目指すことになり、実習で受け入れる側の熱意も高まるだろう」と説明している。【井上俊樹】

毎日新聞 2009年10月14日

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幼保一元化 社会の要請、迅速対応を

 順調に進んでもよさそうなのに、なかなか進まない政策課題がある。幼稚園と保育所の機能を一つにする「幼保一元化」は、その代表例だ。

 幼稚園を管轄するのが文部科学省で、保育所を管轄するのが厚生労働省。この縦割り行政の壁を突き崩さなければ現状打開は難しい。鳩山政権は一元化の動きを加速させるとしている。何が問題なのか、現状をしっかり分析した上で前へ進めてもらいたい。

 あらためて一元化が求められているのは、保育所入所を待つ待機児童の問題が深刻化しているためだ。全国的にはしばらく減少傾向が続いていたが、昨年は増加に転じ、今年はさらに増えて、4月1日現在で2万5千人を超えた。本県も80人増の261人となった。さらに、潜在的な需要が相当数あるとみて間違いない。

 なぜなら少子化で幼稚園が定員割れする一方で、保育所の数は不足する状況にある。保育所の定員を増やしても、共働きで子どもを預けなければならない親の数がそれを上回るペースで増えているのだ。背景には、昨年来の経済状況の悪化が考えられる。

 妻の収入なくして家計が成り立たないというケースは、今や一般的である。政治はそうした社会の変化に敏感に対応し、国民が生活しやすい制度につくり変えていく必要がある。

 民主党は先の衆院選マニフェスト(政権公約)に、この待機児童の解消を掲げた。小・中学校の廃校などを利用し、保育所の増設を進めると明記している。入園者が減っている幼稚園施設も有効活用したいところだろう。

 麻生太郎前首相も一元化を指示したが、いわゆる族議員の抵抗に遭い、断念したとされる。省庁同士のせめぎ合いが予想されるこうした状態こそ、政治主導で打開すべきだ。

 国はすでに2006年度に、幼保一体の取り組みをスタートさせている。ゼロ歳児から就学前までの子どもを対象に教育、保育を一体で行う「認定こども園」制度である。県内では今年4月現在、美郷町や秋田市などの15施設が認定を受けた。全国では358にとどまっており、思うように伸びていないのが現状だ。

 幼稚園、保育所行政の窓口を一本化させた地方自治体もある。本県も04年度、県教育庁に幼保推進課を設けた。それにもかかわらず国の行政が、今も文科省と厚労省で別々に行っている。不自然だし、何より非効率的である。

 鳩山政権は目玉政策である「子ども手当」をはじめ、国民への子育て・教育支援に特に力を入れるとしている。幼保一元化もその一環である。質の高い就学前の保育と教育を確保しながら、子育てのしやすい社会づくりにつながる実効性ある一元化を導き出してほしい。

秋田魁新報 2009年10月14日

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教員免許更新制、2011年度から廃止へ 文科省方針

 文部科学省は14日、教員の指導力向上のため10年に1度大学などで講習を受けることを義務付けた教員免許更新制を2011年度から廃止する方針を固めた。これに合わせ、四年制大学卒で教員免許を与えていた養成課程を大学院2年を加えた6年間に延長し、教員の質を確保する。

 今春始まった教員免許更新制をめぐっては、教育現場から「効果があるか不透明」「教員の負担が増す」との批判があり、民主党がマニフェスト(政権公約)で制度を抜本的に見直す方針を掲げていた。

 文科省は今後、現行制度下で教員が講習を受講しなくても免許が失効しないよう11年1月の通常国会で関係法令を整備する方針。(11:45)

日本経済新聞 2009年10月14日

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教員養成課程6年制へ 文科省が調査費要求

 教員を続けるために10年に1度大学などで講習を受け修了することを義務づけている教員免許更新制をめぐり、文部科学省の政務三役は13日、10年度限りで廃止する方針を固めた。制度は今春始まったばかりだが、現場にはかねて「教員としての技量向上に効果があるかどうかは不透明」「ただでさえ忙しい教員がさらに疲弊する」という批判がある。文科省が同日開いた有識者との会合でも批判的な意見が強く、制度を続ける必要性がないという判断を固めた。

 文科省は、現在の制度下で講習を受講しなくても免許が失効することがないよう、11年1月の通常国会で関係法令を調整する考えだ。

 教員免許更新制は、安倍晋三政権の目玉として設けられた教育再生会議などが提案。幼稚園から高校までの教員が対象で、制度化に当たって文科省は「最新の知識技能を身につけてもらうことが目的」と説明してきた。

 ただし、現場には不満も多く、民主党は今年7月、無駄な事業を洗い出す「事業仕分け」の中で、廃止すべきだとの結論に至った

朝日新聞 2009年10月14日 5時31分

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教員養成課程6年制へ 文科省が調査費要求

 文部科学省は13日、現在は四年制大学卒業で教員免許を与える養成課程を、大学院2年も加えた6年に延長する方針を固めた。2010年度予算の概算要求で制度構築に向け調査費を盛り込む。政務三役が担当部局に指示した。

 志望者には学部卒業後、大学院での修士号取得を義務化し、現行2〜4週間の教育実習も1年に延ばす。新たなカリキュラム作成や、高度な指導のための教授陣選考など具体策を検討する。

 今年スタートした教員免許更新制は10年度にも中止する方針。既に更新した教員には、専門免許の単位に振り替えるなどの救済策も検討する。

 民主党はマニフェスト(政権公約)で「養成課程は6年制とし、養成と研修の充実を図る」と明記。教員養成制度の抜本的な見直しに早期に取り組む姿勢を示していた。

 受け皿には24校ある「教職大学院」を活用する。ただ、現在の修了者数は毎年800人強しかおらず、公立小中高校で年間約2万人に上る採用者数には程遠いため、文科省は都道府県ごとの教職大学院設置も検討。教育現場と直結した実習体制の強化など実務を重視したカリキュラムの充実を図り、新制度に移行させる考え。

 教育学部以外の学部・学科を卒業した学生も、2年間で教職大学院を修了すれば免許を取得できるようにする。

 一方、教員の質の向上策として教職大学院で学び「教科指導」「生活・進路指導」「学校経営」などの分野で高い能力を持つ教員に「専門免許状」を与える制度も新設。免許取得後8年以上の実務を経験した教員を対象にする。

共同通信 2009年10月14日

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文科相、学力テストは「来年度から抽出調査に」

 川端達夫文部科学相は9日の閣議後会見で、小学6年と中学3年の全員を対象に行われている全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)について、「関係団体や有識者から今後、意見を聴くが、抽出方式でやる方向でまとめようという意志を持っている」と述べ、来年度から抽出調査に転換する方針を明らかにした。

 自治体などからは全員調査について「子供一人一人が自分の学力を把握できる」として評価する意見も出ているが、川端文科相は「そういう声もあることは承知している」としつつ、「成績を上げることだけを競争し合うことになっては意味がない」と述べ、全員調査が過度の競争を招くことに懸念を示した。

 その上で、「全国学力テストの最大の目的は、各地域の教育水準が均一化し、向上すること。費用対効果の問題でもあるが、目的を達するには抽出で十分ではないか」と述べた。

 また、「学力の動向をみるなら科目を増やすべきではないか」とも指摘、国語と算数(数学)の基礎・応用の2教科4科目で行われている現行方式を見直す考えも示した。

 全国学力テストは平成19年度に43年ぶりに復活。民主党の支持母体の日教組は、同テストが教育現場に負担となることと、過度の競争を招く懸念などを理由に実施に反対している。

MSN産経ニュース 2009年10月9日

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全国学力テスト:「全員」見直し 抽出方式に切り替え−−文科省調整

 鈴木寛副文部科学相は8日、文科省が小6と中3の全員を対象に実施してきた全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)を抽出調査に切り替える方向で調整していることを明らかにした。来年度予算の概算要求に向け、文科省が具体的な実施方法を検討する。

 省内で初めて開いた政策会議の後、鈴木副文科相は記者団に「事業仕分けでは抽出ということだったから、その方向に沿って内部の詰めをしている」と語った。

 今年度のテスト実施費用は約58億円。民主党は7月、政府の無駄を洗い出す事業仕分けで「抽出調査で十分」と指摘。川端達夫文科相は先月16日の就任の記者会見で「抽出調査でいいのではないか」と述べ、見直す意向を示していた。

 また、鈴木副文科相は先の国会に法案が提出され、解散で廃案となった「スポーツ基本法」について、「来年、(省内に)検討の場を作りたい」と述べた。超党派のスポーツ議員連盟で法案の内容を審議してきたが、自民、公明両党と民主党の間で理念が対立した経緯がある。

 鈴木副文科相は「より多くの党派の協力をいただき、相談しながらやりたい。(法案を)政府から出すか、議員立法とするかは決めていない」とした。【加藤隆寛】

毎日新聞 2009年10月9日

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教員志願者に「熱血教師塾」=静岡市教委

 静岡市教育委員会は、市の小学校教員を目指す学生や社会人を対象に、各界で活躍している人や教育の専門家を招いた「静岡熱血教師塾」を開講する。学校だけでは対応できない教育現場の課題に、新しい視点で取り組む人材を育成するのが狙い。小嶋善吉市長の選挙公約の一つで、塾長は同市長が務める。

 講座は全64回で、受講料は1万円。各界のリーダーを講師とする「人まなび講座」、静岡について学ぶ「静岡講座」、教育のプロが実践的な指導を行う「教官ゼミナール」が用意されているほか、市内の小学校3校の協力を受け、最大13日間の学校体験実習も行う。期間は10月から約9カ月間。

 塾生は30人程度を想定。第1期生には94人の応募の中から、筆記と面接試験で20〜40代の男女47人が合格した。卒塾者は教員採用試験を特別選考枠で受験することができる。(了)

時事通信 2009年10月9日

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学力テスト「抽出方式に転換を」 犬山市教委が文科省に具申書

 民主政権になって見直しが検討されている全国学力テストについて、愛知県犬山市教育委員会は7日、文部科学省に「行政調査にねらいを絞り、一部の学校に絞る抽出方式に切り替えるべきだ」とする具申書を提出した。

 同市教委の瀬見井久教育長らが、地元の愛知6区選出で前同市長の石田芳弘衆院議員(民主)とともに文科省を訪問。鈴木寛副大臣に面会し、具申書を手渡した。

 石田議員らによれば、市教委側は「テストの実施を踏まえ(今後は)抽出方式が良い。授業改善は思い切って地方に任せてほしい」と要望。鈴木副大臣は「方針は数日後に決める。具申の趣旨を非常に重く受け止める」と返答し、前向きな姿勢を示したという。

 同市は今年4月に学力テストへ初参加するまで、全国で唯一、2年連続不参加だった。民主党は2011年度から、学力テストを抽出方式へ大幅縮小する方向で、見直す方針を示している。

中日新聞 2009年10月8日

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不登校対策 子どもの心に沿う形で

 県内の小中学校で不登校になっている児童・生徒の人数と割合を県教育委員会が市郡別の一覧にして示した。

 これまでは教育事務所単位の公表だった。市郡ごとにしたのは、市町村教委ら関係者に現状を知らせ、問題意識を持ってもらうためという。

 文部科学省のいう不登校とは、病気などの理由以外で年間30日以上学校を休んでいる状態を指す。昨年度の学校基本調査で、長野県は小学生の不登校率が全国で最も高かった。中学生も上位にある。

 なぜ多いのか、背景の分析は必要だ。ただ、それを数値から読み解くのはなかなか難しい。事情は一人ひとり異なり、さまざまな要因が絡み合う。

 心配なのは、数値や地域の「順位」に気を取られるあまり、不登校を無理に減らそうとする圧力が強まることだ。子どもを追いつめることになりかねない。

 まずは個々の子どもの心に沿って、粘り強く支援していくことだ。学校に戻る道だけでなく、民間のフリースクールをはじめ学校の外にもさまざまな学びの場を用意したい。こうした環境を整えることに、県教委はあらためて力を注いでもらいたい。

 基本は、実際に子どもと向き合っている現場への支援である。

 相談の態勢や連携が十分とは言えない。不登校の子どもの家庭を支援するソーシャルワーカーは、四つの教育事務所に1人ずつ。学校で心の相談にあたるカウンセラーも常駐ではない。各地で不登校の子どもを支えている民間組織との連携も重要だ。

 学校で先生が子どもと過ごす時間を多く取れるよう、教職員の態勢も拡充する必要がある。

 独自の対策が実りつつある市町村もある。家庭への訪問をきめ細かくしたり、保健、福祉分野と連携して就学前から子どもの育ちを支えたりする取り組みだ。県教委は事例を研究し、現場で共有できるようにすべきだ。

 学校を地域に開き、積極的に支援を求めていくことも欠かせない。地域社会が不登校の子を理解し、受け止めることが大事だ。子どもが安心して過ごせる「居場所」を地域に増やしたい。

 県教委と市町村教委の幹部でつくる不登校対策の検討委員会が、動きだしている。年明けをめどに行動計画案をまとめるという。

 検討委は、不登校の経験者と親、支援者らの声にじっくり耳を傾けてほしい。当事者の視点、意見を組み入れることで、子どもの心に沿う対策となるはずだ。

信濃毎日新聞 2009年10月7日

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新閣僚に聞く:鳩山内閣/12 川端達夫・文科相 学校に「地域の力」を

川端達夫・文科相  ◇川端達夫(かわばた・たつお)
 −−日本の教育の現状をどう見るか。

 ◆学力では「応用が利かない」という傾向が出ている。親の世代より体格はいいが、体力は落ちている。人への思いやりや規範意識の欠如など「社会性」の問題もある。キャンプや魚取りをしたことがないなど、自然や地域に接する機会も減っている。

 −−どう対応していくべきか。

 ◆まず、先生がもっとスキルアップしなければならない。教員養成課程の6年制化に加え、今いる先生たちも研修や教育を通じて質を上げていく。

 社会性を養うには、先生だけでなく、いろいろな社会経験のある人や、地域の力を教育現場に取り込むことが大事。学校運営には、地域(住民の)参加による「学校理事会制度」を導入するのがいいと思う。

 −−教育委員会制度についての考えは。

 ◆機能を相当変えていく。自治体(の首長部局)が地域の教育の基本的な責任を持ち、教育委員会はそれをチェックする役割の方が実体を伴う。国は一定の教育水準を確保し、環境や条件を整備するための財源に責任を持つ。

 −−子どもの「理科離れ」をどう食い止めるか。

 ◆私の実家は薬局だった。小学生のころ、鉛色のご飯粒みたいな亜鉛に硫酸を入れたら水素ガスが出てきて、風船に入れると浮いた。これはかなり衝撃的で、私が大学で化学を選ぶルーツになった。

 「不思議だな」「びっくりしたな」とか、驚きや好奇心を持つ機会を可能な限り増やすことに尽きる。教員には文系出身者が多いので、研究開発にかかわっている社会人の協力などで補うべきだ。身近な町工場の人に「こんなん作ってんねんぞ!」という話をしてもらってもいい。

 −−高校授業料無償化の意図は。

 ◆子どもは国の将来を支える一番大事な宝であり、「社会全体で支えるんだ」というのがマニフェストの基本理念。世界でも、高校までは授業料がかからないようにするのが基本だ。授業料以外の費用など、生活困窮者への支援はまた別の切り口でやりたい。大学進学は「自分の未来への投資」と位置づけ、奨学金制度を拡充していく方がなじむだろう。

 −−大の阪神タイガースファンで「応援する議員の会」の発起人にもなったとか?

 ◆阪神ファンは、応援しながらどこかで「きっと負ける」と思っている。ストイックなところがあり、大騒ぎして道頓堀に飛び込むのは本当のファンじゃない。「議員の会」は秘密結社みたいなもので、静かにひそかに応援している。【聞き手・加藤隆寛、本橋和夫、奥野敦史】=つづく

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 ■人物略歴

 1945年生まれ。京都大大学院工学研究科修了後、東レに入社、研究開発に携わる。86年衆院選に旧民社党から出馬、初当選。新進党などを経て民主党入り。党国会対策委員長、党幹事長などを歴任し、06年から党副代表。

毎日新聞 2009年10月7日

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<どうなる学校>賛否分かれる“6年制” 民主党の『教員免許にも修士課程』

 子ども手当や公立高校授業料無償化が話題だが、民主党のマニフェストには、教員免許制度を見直し、養成課程を医師並みの六年制(修士)にするという政策がある。教員の質向上が目的だが、その効果は? (井上圭子)

 民主党の教員免許制度改革は、養成課程を四年から六年に延長、大学院で修士資格を得ることを条件とする。養成のポイントは、現場経験をしっかり積ませるため現行二〜八週間の教育実習を一年間にする点。「教養と実習」で質を上げる狙いだ。

 六年制はフィンランドなど欧州では主流で、それをモデルにしているという。川端達夫文科相はさっそく先月、新制度を検討することを表明した。

 大妻女子大学の矢野博之准教授(教師教育論)は「六年制になれば、小学校教員の養成課程では幅広い教科を学べ、中高教員養成課程では、数学など高い専門性に磨きをかけられる。教員の大変さや等身大の学校像も、長期実習なら見えてきて将来像を描きやすくなる」と話す。

 文部科学省の調査では二〇〇七年度、私立中高一貫校教員で、専修免許状取得(修士資格)者の割合は、中学校で18・4%、高校30・3%。一方、公立の教員は中学校5・0%、高校26・8%だ。私立の学力レベル上位校だとさらに比率が高いという。

 森上教育研究所の森上展安所長は「大手進学塾や難関私立中高一貫校の教員は、指導者が良くないと生徒が来ないから修士が多い。『教養も中途半端、現場スキルもない』では親の信頼は得られない」と評価する。

 一方、懐疑な声で多いのは、人材の質向上には「現場が大切」という主張だ。

 一年間休職して教員養成系大学大学院に通う東京都内の公立小学校教員(34)は「現場で学ぶことの方がはるかに多く大切だった。単に養成期間を延ばすだけなら、ダラダラした学生時代が長くなるだけ」と話す。

 川崎市立小学校の教員(36)も「保護者が信頼する先生とは、いつも子どもの味方で、自分の過ちを素直に認め、より良い授業のため研究を怠らず、子どもを毅然(きぜん)としかれる人。修士なら尊敬されるというものではない」と指摘、「現場で良い先輩に見守られ、子どもと正面からぶつかり、自分を成長させていくのが質向上の一番の近道」と説く。

 人材育成効果の是非以前に、高額になりそうな学費問題を懸念する声も。民主党は奨学金制度充実も掲げているが、基本的には“借金”だ。東京都練馬区立小学校の教員(38)は「大学院まで無収入で学費が必要となると進学機会を奪われる人が増える」と言う。

 さらに修士資格取得条件は幼稚園教員も同じだ。だが、ある幼稚園関係者は「幼稚園教員は七割が短大卒。『二十歳で採用、二十代半ばで寿退社』の業界にも修士が義務付けられ二十四歳で新卒となると、若い人材で人件費を抑えている私立幼稚園はかなり困る」と余波を恐れる。

 一年の実習も負担だ。教員養成をする日本教育大学院大学のある教授は「二年間で二十日間の実習受け入れ先確保も苦労しているのに…」と頭を抱える。

 ある都立高校教員(46)は、職場環境の改革の方が必要と訴える。「フィンランドをまねるなら、少人数学級や現場の裁量権の大きさ、残業のない職場環境なども見習うべきだ」

中日新聞 2009年10月6日

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鳥取県教委が控訴見送り=学力テスト開示判決受け入れ

 2007年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)をめぐり、鳥取県教育委員会に市町村・学校別結果の開示を命じた鳥取地裁判決について、中永広樹県教育長は6日、控訴しない方針を平井伸治知事に報告した。判決を受け入れ、07年度分を開示し、08年度分についても情報公開請求に応じる方針。09年度分は9月に既に開示している。
 中永教育長は「司法の判断を重く受け止める。開示対象のテストを受けた児童生徒が卒業して、問題が生じる可能性は低い」などと述べ、平井知事は「異論はない」と応じた。

時事通信 2009年10月6日

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学力テスト開示命令、鳥取県教委 控訴断念へ

 2007年4月に実施された全国学力テストの市町村別・学校別結果の開示を巡る訴訟で、鳥取県教委は、開示を命じた鳥取地裁判決を受け入れ、控訴を断念する方針を固めた。6日に中永広樹・県教育長が平井伸治知事に報告、全国で初めて同テストの結果開示を命じた判決が確定する。

 複数の県教育委員によると、県教委が09年度分の市町村別・学校別を既に開示していることや「住民の知る権利は(国の通達などで)安易に制限されるべきではない」とした判決を重く受け止め、判断した。

讀賣新聞 2009年10月6日

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教育投資 格差解消に意気込み示せ

 民主党が政権交代を果たして、教育政策はどう変わるのか。連立による鳩山新政権が誕生したいま、その道筋を含め明確に打ち出すことが求められる。

 衆院選中に政権公約で訴えた「高校無償化」は極めて関心が高い。公立校の授業料を実質無償化し、私立校生の家庭にも1人年12万―24万円を助成するという。川端達夫文部科学相は「公約通り2010年度から実施する」と明言した。

 高校は進学率が98%に達し、準義務教育化している。同じく公約の「子ども手当」よりばらまき色は薄く、費用も5千億円程度だ。恒久策として財源の手当ては必要だが、妥当な政策だろう。

 また、各家庭へ直接は給付せず、都道府県や私学の学校法人など高校設置者に交付する間接給付案が考えられているという。直接給付では手続きをする自治体の事務経費が多額に上るほか、家庭が授業料に充てる保証がないなど問題がある。実効ある仕組みを探ってほしい。

 改善すべき日本の教育課題は無論、これだけではない。むしろ、私たちが知りたいのは、新政権がいまの教育をどう変えようとしているかである。

 折しも、経済協力開発機構(OECD)の06年調査結果が公表され、教育に対する日本の公的支出水準が依然低いことが明らかになった。国内総生産(GDP)に占める国と地方自治体合わせた教育費支出の割合は3・3%であり、比較できる28カ国中で下から2番目だ。

 逆に、全教育費に占める私費負担の割合(OECD平均15・3%)は33・3%と、韓国に次いで2番目に高い。「日本の教育費は家計におんぶに抱っこ」と言われ、とくに幼稚園など就学前と大学など高等教育段階では、それぞれ56・6%、67・8%と私費負担が大きい。

 こんないびつな現状を放ってはおけまい。教育費の公的支出について、民主党は政策集で「GDP比で5%にする」とOECD加盟国平均に並ぶことを目標に掲げている。それを、どうやって実現するのか、知恵の絞りどころである。

 いま教育では、二つの「格差」に注目すべきだろう。一つは、家庭の所得格差が子どもが受ける教育の格差につながっている現実だ。高等教育を含めて教育の機会均等を保障することは重要であり、高校無償化はその一環ととらえたい。

 もう一つは地域格差である。義務教育の場合、国と地方折半だった教員の給与負担割合は、いわゆる三位一体の改革に伴い地方が3分の2へと増えた。このため、財政が厳しい自治体ほど正教員採用を手控えて講師で賄うなど、教員の数と質に差が生じているといわれる。

 少人数指導など教育の充実に向け、民主党は教員の増員にも前向きだ。地方の負担軽減を目指すべきであろう。

 こうした格差を解消する努力こそ不可欠であり、教育政策も教育投資も新政権は意気込みを示してもらいたい。

西日本新聞 2009年10月4日

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全国学力テスト訴訟「判決を前向きに受け止めたい」

 全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)に関し、市町村・学校別結果を開示せよという判決が2日、示された。自治体などから「学校の序列化につながる」「過度の競争が生じる」などとして、開示すべきでないとの意見も出ていたが、判決はそうした主張を退けた内容となった。

 「市民オンブズ鳥取」メンバーが、県教委が市町村・学校別結果を非開示としたことを不当だと訴えていたもので、原告側によると、全国学力テストをめぐる訴訟で開示を認める判決はこれが初めてだという。

 地裁の判決は「開示により、国が実施するテストの適正な遂行に支障を及ぼす恐れがあるとはいえない」というものだ。

 訴訟で原告側は県情報公開条例は原則開示を定めており、過度の競争などが生じる恐れを具体的に立証できなければ開示すべきだと主張した。

 これに対し県教委は、市町村が非開示を前提に参加していることを指摘し「開示すれば国や市町村教委、学校と県教委の信頼関係が失われ、教育施策遂行に支障を来す」と反論していた。

 結果的に地裁は、県教委が危惧(きぐ)した「教育施策遂行に支障を来す恐れ」がないと断じたのである。

 判決をどう受け止めるべきなのか。判断は難しい。

 特に鳥取県教委は今回の訴訟判決を前に2009年度以降は市町村と学校別の平均正答率の開示を決め、9月には全国初めて請求者に公開している。訴訟はそれ以前の07年度分のことだ。鳥取県教委にとっては判決が出てもさほど驚く内容ではないとも言える。

 ただ、問題は全国に対する影響だ。全国学力テストは文部科学省が07年に小6と中3の全員を対象に43年ぶりに再開した学力調査だ。結果は全国の状況、都道府県別の正答率などを公表しているが、調査に支障が出る恐れがあるとして文科省は都道府県には市町村・学校別の結果を公表しないよう通知しているのである。

 今回の判決によって市町村・学校別の結果は今後、開示される流れができていくのだろうか。もしもそうなれば困惑する市町村、学校も出てくるに違いない。全国一律に結果が示されるならいいが、県や市町村によって対応がまちまちというのは、確かに好ましくない状況ではある。

 ただ、ものは考えようである。学校の序列化や競争激化を特別に意識したり、過度に心配するのはやめて、今回の判決を子供たちの教育のためと前向きにとらえてはどうだろう。

 テスト結果が子供たちの成長につながる刺激にもなるし、場合によっては発奮材料にもなる。そういうプラス思考で子供たちを指導していけば、教職員も今以上に教育にやりがいを感じることができるのではないか。

陸奥新報 2009年10月3日

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教育政策 「第3の改革」の気概を

 政権交代で政策に変更が加えられるのは当然のことだが、教育については「なぜ変える」だけではなく、それらによってどのような教育改革に結びつけていくのか、大きなビジョンをうたいあげてほしい。

 なぜなら、教育の目的はさまざまな意味で「生きる力」を育成することであり、それは政策変更で即「成果」が表れるものではない。まして公教育支出は社会全体で負担をという今、なおさらのことだろう。

 現実はどうか。この10年ほど、教育政策は落ち着きを失ったようなブレを見せ、大きな目標に向かって確かな歩みを進めている感がない。

 新政権は高校無償化を来年度から実施し、大学奨学金の拡充、現行の全国学力テストや教員免許更新制度見直しも表明している。また教員養成課程を6年に延ばす考えだ。

 無償化や奨学金は経済格差の中での就学難を補う。学力テスト見直しは全員参加方式(悉皆(しっかい)方式)の必要はないという判断だ。教員の質向上は免許更新制より養成教育でという。また教育予算の比率や子供1人当たりの教員数で先進諸国の中で後れを取っていることも、改善課題に挙げられている。それらは一つ一つ重要項目で、取り組みの着実な進展を望みたいが、では、全体でどのようなビジョンを描くのか。

 明治の学制発布を第1、敗戦後に6・3・3・4制に「単線型」化した現行学制を第2の教育改革という。行き詰まり始めた70年前後から「第3の教育改革」論議が高まる。80年代に臨時教育審議会は「個性の重視」「国際化・情報化への対応」「生涯学習社会」を改革理念に示した。だが、単線型の基本は変わらず、抜本的な変革にはまだ遠い。

 特に気になるのは、学校現場の先生に聞くと、学力より学習意欲低下や動機付けの難しさがしばしば問題として挙げられることだ。単線型学校制度では「皆と同じように」進級、進学する。そして7割以上が大学など高等教育に進んでいるが、目的がはっきりしない学生が多く、今は就職用の専門教育をする学校を別途作る構想も論議される状況だ。

 こうした時だからこそ、新政権は「第3の改革」の骨太ビジョンを示す意義と必要がある。例えば、何歳でも勉強のやり直し機会や意欲が持てる社会。選択肢の多い分岐型、複線型の学校。飛び級や選抜教育。仮にこうした理念を実現するなら、制度設計や条件整備は難関だらけだ。「横並びでないと不安」という精神風土も変える覚悟が必要だろう。

 しかし、そんな気概でビジョンの論議に踏み込まなければ、新政権の政策は金のつけどころを変えただけということになりかねない。

毎日新聞 2009年10月3日

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学テ非開示 取り消し 「教育施策、支障ない」

 2007年度の全国学力テストの市町村別・学校別結果を開示しないのは、公文書の原則開示を定めた鳥取県情報公開条例に違反するとして、市民オンブズ鳥取(代表・高橋敬幸弁護士)が県教育委員会を相手に非開示処分の取り消しを求めた訴訟で、鳥取地裁(朝日貴浩裁判長)は2日、「開示してもテストの適正な遂行や結果を活用して行う教育施策に支障はない」と原告の訴えを認め、処分の取り消しを命じる判決を言い渡した。

 全国学力テストの結果開示を認める判決は全国で初めて。

 裁判では「開示により序列化や過度の競争が生じるおそれがあり、市町村教委の参加協力が得られなくなるなど、テストの遂行に支障を及ぼすおそれがある」と、被告側が非開示理由とした“おそれ”の有無が争点となった。

 判決で朝日裁判長は、09年度以降の市町村別・学校別結果を開示できるようにした条例改正後も、市町村教委がテスト参加方針を決めている点を挙げ、「非開示決定がなされた当時においても、開示によって次年度以降のテストに参加協力しなくなるという蓋然(がいぜん)性があったとは言い難い」と指摘した。

 さらに、“序列化や過度な競争”について、全国学力テストと類似し結果が公開されている過去5回の県基礎学力調査で「生じたという指摘や報告は一切ない」とし、「おそれは、抽象的主観的なものにとどまると言わざるを得ない」と被告側の主張を退けた。

 オンブズ側は昨年8月に開示請求。県教委が開示せず、同年10月に提訴した。文部科学省の実施要領は都道府県による市町村別・学校別結果の開示を認めず鳥取県も非開示としていたが、昨年12月の県議会で本年度実施分以降は開示できるよう情報公開条例改正案が可決された。

日本海新聞 2009年10月3日

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《教育ルネサンス》 学力テスト結果分析

全国平均以下の分野も
 4月に行われた全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)で、全国トップレベルの成績を収めた秋田県。全般的に無回答率も低く、特にB(応用)分野では国語、算数・数学とも公立の全国平均と比べて正答率は高く、県教育庁では「授業改善が進んでいる証し」と手応えを感じている。しかし、問題ごとの正答率を見ると、県平均が全国平均を下回った分野も。浮かび上がった課題を踏まえ、克服に向けた対策が始まっている。(飯田真優子)

■国語■

 A(基礎)分野は、小6、中3とも、漢字の読み書きにはおおむね問題が無いが、接続語や慣用句など、文章表現に生かされる分野に弱さが見られた。

 小6では、これまで2回の学力テストには無かった出題分野であるローマ字の読み書きで課題があることが分かった。書き取りは全国平均より低く、読みも全国とほぼ同レベルだった。

 ローマ字の書き取りは、パソコンでの文字入力に使うなど、今後の生活でも必要になる。県義務教育課では、国語以外の時間でも、総合的な学習の時間中のパソコン作業や外国語活動(英語)の際に、繰り返し学ぶことで定着を図ってもらいたい考えだ。

 中3は、全国平均を下回った同音異義語のほか、適切な語句の選択など文法に関連する言語事項の正答率が低かった。こうした問題は、テストで解けなかった問題をもう一度授業で解かせるだけで終わらせがちだが、「文章を読み書きする中で活用し、身に着けさせることが重要」と同課は指摘する。

 B分野では、小中共に、前年までも課題としてきた長文を書く問題で、正答率は低かったものの、全国平均は上回った。同課では「『読み、考え、書く』習慣が付いてきている」とした上で、各学校に読書活動やNIE(新聞活用学習)を通じたより一層の「書く力」の向上を求めている。

■算数・数学■ 

 小6で唯一、県の平均正答率が全国平均を下回ったのは、A分野の「100を45個集めた数を書く」という問題。数の概念理解に課題があり、特に大きな数になると、正答率が低くなっている。また、百分率(パーセント)の理解にも昨年に続いて弱さがあった。

 中3では、証明について正しいものを選ぶ問題で、県平均が全国平均を下回った。等式を目的に応じて変形する問題は、これまでもずっと県内の課題としてとらえてきた分野で、全国平均は上回ったものの、約半数はいまだ理解できておらず、課題が残る。

 県義務教育課は「算数・数学は、授業で学んだ後に数式などを使わずにいると、時間と共に知識が抜けていってしまう」と指摘。ミニテストなどで演習を繰り返し、知識を確認しながら理解を進めることが重要になる。

 同課では、小中それぞれ向けに、学力テストで浮かび上がった課題を踏まえた演習問題を作成。学校向けに作ったウェブページで9月30日に公開した。10月中にもさらに2回、問題を追加する予定で、12月に行われる県の「学習状況調査」の際、課題となっている分野の学力がどの程度身に着いたかを確認するという。

讀賣新聞 2009年10月3日

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全国学力テスト:結果、鳥取県に地裁が開示命令 全国初

 国が実施する全国学力テスト(07年度)の市町村別と学校別の平均正答率を非開示とした鳥取県の決定は当時の県情報公開条例に違反するとして、市民オンブズ鳥取(代表・高橋敬幸<ひろゆき>弁護士)が決定取り消しを求めた訴訟の判決が2日、鳥取地裁であった。朝日貴浩裁判長は請求を認め、県に開示を命じた。学力テスト結果の開示を命じた判決は全国で初めて。同条例は提訴直後の08年12月に改正され、09年度分からは市町村別、学校別データも開示されている。

 同県は、県教委が02〜06年度に独自の学力調査を行った際、「個人成績が特定されかねない10人以下の学級のデータを除いて開示」という趣旨の規定を同条例に盛り込んだ。条例は学力調査全般を開示対象としたが、「国などの事業の遂行に支障をおよぼすおそれ」がある場合は非開示と規定していた。

 県は、市町村教委が開示に強く反対しているとした上で、「開示によって教育現場に過度な競争が生じ、参加しない自治体が出ると、学力テスト遂行に支障が出る」と主張。

 これに対し、オンブズは「開かれた県政に資するという条例の目的などに照らし、非開示規定の解釈は厳格でなければならない」と指摘。「県の学力調査で市町村別結果が公表されたが、苦情や学校の序列化は生じておらず、学力テスト結果を非開示とする条例解釈は誤り」としていた。

 文部科学省は学力テスト実施要領で市町村や学校別の結果を公表しないよう求めているが、強制力はなく、鳥取以外に秋田県や大阪府も市町村別データなどを開示している。【田中将隆】

毎日新聞 2009年10月3日

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鳥取地裁、学テ結果の開示認める 県教委の処分取り消し

 全国学力テストの市町村別・学校別の結果を非開示にした決定は県情報公開条例違反だとして、市民団体「市民オンブズ鳥取」が鳥取県教育委員会の文書非開示処分を取り消すよう求めた訴訟の判決で、鳥取地裁は2日、「開示してもテスト事業の適正な遂行に支障はない」と開示を認め、県教委の処分を取り消した。

 全国学力テストの結果開示を認める判決は全国で初めて。

 朝日貴浩裁判長は判決理由で、県条例改正でデータが開示されるようになった2009年度のテストに全市町村教委が参加した点を挙げ、「開示しても、市町村教委の参加協力が得られなくなる恐れはない」と指摘した。

 判決によると、市民オンブズ鳥取は昨年8月に07年度分の市町村別・学校別結果について公文書開示を請求したが、県教委は「過度な競争の恐れ」があるとして開示しなかった。

 県教委は「市町村教委の参加協力がなくなれば、事業の適正な遂行に支障が出るため、条例の除外規定にあたる」と主張していた。

 文部科学省の実施要領は都道府県による市町村別・学校別成績の開示を認めていない。鳥取県では教育関係者らが開示に否定的で市町村別・学校別成績を非開示としていたが、08年12月の県議会で、09年春実施分以降は開示できるよう情報公開条例改正案が可決された。県教委はことし9月7日、改正条例に基づいて市町村別・学校別のデータを請求者に開示した。

共同通信 2009年10月2日

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