教育再生会議関連社説・論説



[教育改革調査]現場踏まえた実質論議を

官邸主導の教育再生会議が発足し教育改革論議がスタートした。教育基本法改正を視野に入れた教育の再生は安倍晋三首相が政権の最重要課題と位置付ける問題である。

しかし一方で、目まぐるしく変わる改革論議に、小中学校の教育現場から戸惑いの声も出始めている。

再生会議では教員免許更新制や学校評価性を優先的に議論し、親や生徒が学校を選択できる教育バウチャー制度なども検討する。来年一月に中間報告をまとめる予定で、政府は通常国会で関連法案の成立を目指す構えだ。

スピードを重視した論議が中身のある教育改革に結びつくのかどうか、疑問を抱く人も少なくないだろう。

東大の基礎学力研究開発センターが全国の公立小中学校の校長を対象に、教育改革について聞いたところ、回答者の85%が「速すぎて現場がついていけない」と感じていることが分かった。

66%は教育基本法改正案に反対しており、「教育問題を政治化しすぎ」との回答も67%に達している。

また、79%は「教育改革は、学校が直面する問題に対応していない」と回答しているのが象徴的である。

一連の教育改革論を疑問視する見方が大勢を占めている。教育現場で悩む校長の問題意識が如実に反映された結果と受け止めることもできよう。

教育現場の実態を軽視しがちな政治主導の教育改革論の危うさが、あらためて浮き彫りになっている。

中教審が教員の質確保のために導入を答申した教員免許更新制に対し賛成する校長は41%にとどまった。

学校選択制については、学校の活性化に役立つとする肯定的な回答がある一方で、「一部で教員の士気が低下する」(73%)「学校の無意味なレッテル付けが生じる」(88%)「学校間格差が拡大」(89%)など、同制度のマイナス面を懸念する声が多い。

大多数の校長が将来の教育格差の問題を心配しており、88%が「子ども間の学力格差が広がる」と回答し、「地域間」(84%)「公立・私立間」(77%)と、いずれも格差の拡大を予想している。

この調査結果が示唆しているのは、教育改革論が学校現場と懸け離れたものになっているということだ。現場の声を置き去りにしたままで、何のための教育改革なのか。一連の校長らの声を官邸の教育改革論に反映させていくべきだろう。

政治的な思惑だけが先行するような官邸主導の強引な教育改革はやめるべきだ。論議の前に、まずは教育現場の声に虚心坦懐に向き合う必要がある。

沖縄タイムス 2006年10月23日

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教育再生会議発足 議論の行方、専門家注視

安倍政権が重要課題と位置づけている教育改革に向けて、「教育再生会議」が18日発足した。17人のメンバーの考え方はさまざまで、安倍首相に親近感を持つ保守の立場からも疑問の声が出ている。今後の会議がどう展開するのか、専門家に占ってもらった。

■「独断でなく、調査集約を」

半導体の権威として知られ、教育基本法の改正の必要性を訴えてきた西沢潤一・首都大学東京学長は、再生会議のメンバーになった17人を見て、「右から左まで、という感じ。あまりいい意味でなく、バランスが取れている。『文部科学省が勝った』と言えるのではないのか」と感じた。実際、文科省幹部の一人は「出そろった面々を見ると穏健、妥当だ。従来の路線をそれほど変えることはないだろう」と分析する。

再生会議は来年1月にも中間報告を出す方向だが、西沢学長は会議が成果をあげることに懐疑的だ。「昔からそうだが、委員会というものは最初から結論が決まっていた。若干の議論をさせて、『以上の議論を踏まえてまとめさせていただきます』というふうになるのではないのか」という。

日本教育学会会長の佐藤学・東京大教授は、教育学の専門家がいないことを心配する。「議論が予想される教育バウチャーなどは大問題。内外でのいろいろな調査をきちんと集約すべきだと思うが、このままでいくと思いつき、独断による会議になりかねない」

教育の基本方針を議論する組織としてはすでに中央教育審議会があり、再生会議メンバーのうち野依良治座長ら6人が委員か臨時委員を務めている。どちらの組織の決定が優先するのかはっきりしない。佐藤教授は「大きな改革の前には、首相のリーダーシップが重要なことは否定しない。だが、それには中教審などの既存の委員会や、国民、教育の専門家の議論をきちんと踏まえる必要がある」と指摘する。

■「改革のための改革」懸念

教育改革の必要性は過去に何度も主張され、新しい政策もたびたび提案されてきた。小渕・森政権の時に設けられた「教育改革国民会議」は00年、「教育を変える17の提案」をした。安倍首相が著書や施政方針演説で打ち出している、指導力不足の教師への対応や、学校評価などの課題もここで示され、その後、具体化が進められてきた。

国民会議のメンバーを務めた藤田英典・国際基督教大教授(教育学)は「基本法の改正など個人的に反対した提案もあったが、これらが法制化などの過程を経て、今まさに実行に移ろうとしている段階だ。これまでの評価もしない『改革のための改革』になってしまう可能性がある」と話す。

再生会議で初めて本格的に議論されそうなテーマとしては、バウチャー制度や、学校評価を、保護者や地域住民だけではなく第三者機関が行うことの是非が考えられる。藤田教授は「これらは学校をより競争させる方向の政策で、実施されると日本の教育の優れた部分を支えてきたおおらかさ、安定性が失われてしまう」と語る。

                  ◇

〈教育バウチャー〉 一般的には、子どもがいる家庭が行政からバウチャー(利用券)を受け取り、国公私立を問わず、通わせたい学校に提出、学校は集めた生徒数に応じて運営費を獲得できる制度を意味する。米国の一部やニュージーランド、チリなどで導入されているが、対象を低所得者に限定したり、バウチャーを発行しなかったりと、様々な形態がある。

朝日新聞 2006年10月23日

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春秋

おととい「教育再生会議」が初会合を開いた。安倍首相の肝いりで設置された直属の諮問機関である。「質の高い教育」を提供する改革案を議論し、1年間で結論を出す。

▼小泉首相が手がけた「改革」路線を安倍首相は教育問題で引き継ぐ。公教育改革にかけた並々ならぬ意気込みは、著作「美しい国へ」の中で「教育の再生」の章を立てていることからもうかがえる。

▼教育再生は日本再生につながる。そう思わせる事例に最近は事欠かない。技術立国を担保する理数の学力低下は以前から指摘されてきた。自国文化を誇りに思う気持ちが薄れつつあるのは、国語力の衰弱と無縁ではない。

▼義務教育の現場で進行中の「崩壊」が危機感を募らせる。生徒や児童同士、教師と教え子、現場と教育委員会など、種々の回路が根詰まりを起こしつつある。回路不全が絡み合った1例を、各地で相次ぐ「いじめ自殺」に見る。

▼この問題を抜きに教育再生は語れない、と思っていた。初会合では触れられなかったらしい。意外な気がした。首相に「英知を結集した」と言わせた各界代表たちが、目の前にある問題を知らないはずはない。

▼いじめによる自殺は「7年連続でゼロ」と文部科学省は認識していることが分かっている。回路不全がここにもありそう。いじめの問題に触れれば教育行政の大もとに話は及ぶ。そうならないために事務方が触れさせなかった、とみるのは読みすぎか。

西日本新聞 2006年10月20日

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教育再生会議 オープンな議論を求める

安倍晋三首相が最重要課題に位置付ける教育の再生策を有識者らが話し合う「教育再生会議」の初会合が開かれた。国家百年の計である教育が、この会議を通じて変わっていく可能性がある。関心を高めなければならない。

戦後の詰め込み教育が批判を受け、一九七〇年代以降は校内暴力やいじめなどの問題が顕在化した。ゆとり路線が取り入れられたものの、いじめなどの問題は依然として深刻で、近年は学力低下論争も出てきた。これまでの改革の検証と新たな視点の導入は必要だろう。

首相は戦後体制からの脱却を掲げる。まず国の基礎である教育の見直しから取り組もうということだろうが、保守色の強い改革になるのではとの懸念の声は根強い。

文字通りの教育再生と、首相の政治路線反映という両面から会議の内容を注視しなければならない。しかし、初会合では首相や座長の野依良治理化学研究所理事長のあいさつが公開されただけで、会合自体は非公開だった。今後も同
様の方針で、議事要旨や議事録が後で公開される。

会合後の説明によれば当面は教員免許更新制と学校評価制を優先して議論し、来年一月に中間報告するという。これらは文部科学省や文科相の諮問機関・中央教育審議会が既にレールを敷きつつあるテーマだ。会議で話し合うことは、
内容的に異なるのか。また、文科省や中教審との調整はどうなるのか。

開催前からのこうした疑問が残ったままなのは、初会合が非公開であったことと無縁ではあるまい。会議では親や生徒が学校を選択でき、学校間の競争を促すとされる「教育バウチャー制度」も検討の対象になる見通しだが、導入に
は賛否の意見がある。非公開で議論されることは納得がいかない。

首相は、あいさつの中で規範意識や情操を身につけさせる必要を訴え、奉仕活動や伝統文化の学習の重要性も強調した。教員免許の更新制などで会議の実績をまずアピールし、その後安倍色の強い改革を目指す意図がうかがえる。首
相の教育改革の本筋といえる部分であり、議論の過程を詳細に追う必要がある。

野依座長は議論公開を求める声に対し「事実は真実の敵という言葉がある」と述べ、最終的にまとめてメッセージを伝える考えを示した。

過剰反応を招かないための配慮だろうが、やはり議論はオープンが望ましい。現場の先生や保護者を巻き込む形で話し合う方が納得を得やすく結果としても改革がスムーズに進むのではないか。

山陽新聞 2006年10月20日

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教育再生会議始動 子ども本位の改革に知恵を絞れ

安倍晋三首相肝いりの教育再生会議がスタートした。

初会合で安倍首相は「国づくりの基礎となる教育再生の推進に全力で取り組む」と決意を語った。いま教育現場には、いじめによる自殺、学力の低下などさまざまな課題がある。これらを一つ一つ解決していかねばならない。

官邸主導の教育再生会議をつくったからには、この国の将来を担う子どもたち本位の改革案を練り上げる責任がある。

再生会議のメンバーはノーベル化学賞受賞者の野依良治理化学研究所理事長を座長に経済界、芸術・スポーツ界、教育現場などから十七人が起用された。初顔合わせでは委員がそれぞれの持論を披露した。多彩な顔ぶれだけに意見の隔たりが浮き彫りになった。集約に手間取る場面もありそうだが、議論の出発点として多様な意見が出ること自体は好ましいといえる。

安倍首相は九月の所信表明で「すべての子どもに高い学力と規範意識を身に付ける機会を保障するため、公教育を再生する」と言明した。実効性ある施策を打ち出せるかどうかは、再生会議の論議の中身にかかっていよう。個々のメンバーの責任もきわめて重い。

再生会議は当面、教員免許の更新制や学校の外部評価制を優先して議論するという。

しかし、教員免許更新制は二年前に当時の中山成彬文科相が中央教育審議会に諮問し、今年七月に答申され、すでに方向性が出ている。それには「不適格教員の排除が直接目的でない」と明記されたが、再生会議で排除の色が強くなる恐れを指摘する委員もいる。蒸し返すつもりなら、慎重な議論を求めたい。

また学校の外部評価制導入は学校間の競争を促すとされる。こうした競争原理優先は学校間格差を拡大し、教育現場の荒廃が進みかねない。これは親や子どもが学校を選択できる「教育バウチャー制度」にもいえることだ。選択肢の少ない地方や過疎地では成り立たないとの反発もある。伊吹文明文科相が「この分野は競争だけではうまくいかない」とくぎを刺したことを忘れてはならない。

子どもの学力低下も教育現場の悩みの一つだ。国際学力調査の評価では読解力の順位低下など心配な面も確かにある。「勉強ができる子」と「できない子」の二極化が進んでいるのも気がかりだ。楽しく分かりやすい授業で子どもたちに学ぶ意欲を持たせ、学力の底上げを図る具体策を打ち出すべきだ。

それにしても再生会議の運営面で解せないことがある。非公開とは、どうしたことなのか。教育改革の行方は国民の大きな関心事であり、審議内容はつぶさに知りたいはずだ。やはりオープンにしなければ、国民の理解は得られまい。

これから再生会議は全体会議と並行し、課題ごとの複数の分科会で論議を進める。来年一月に中間報告するというが、実質三カ月とは短かすぎる。教育は百年の大計だ。じっくり議論を深めてもらいたい。

愛媛新聞 2006年10月20日

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教育再生会議・競争原理の偏重を懸念

安倍晋三首相が重要課題に挙げる「教育改革」の具体策を検討する「教育再生会議」の初会合が開かれた。教員免許更新制や学校評価制の導入を優先して議論を進め、来年1月に中間報告を取りまとめる方針という。

安倍首相は会合で「国づくりの基礎となる教育再生の推進に全力で取り組む」と決意を述べた。

いじめによる自殺の続発に象徴されるように、現在の教育現場には大きな問題がある。改革・改善は国民的課題だ。

問題は「再生」が目指す中身である。

安倍首相は所信表明で「教育の目的は志ある国民を育て、品格ある国家、社会をつくること」と述べるなど「個人」よりも「国家・社会」を重視していることは明らかだ。

教育は子どもたちのためにある。その基本を出発点にしなければ、国民が期待し望む教育の再生は、なし得ない。

学校評価制をはじめ、今後検討課題となる見通しの「教育バウチャー制度」は、学校間の格差を生じさせる懸念がある。親や生徒が学校を選択できる教育バウチャー制度は競争原理そのものである。

学校間の格差が拡大すればするほど、教育現場の荒廃が進むことが危(惧きぐ)される。そうなれば、子どもたちが最も大きな影響を受けることになる。

今、求められているのは画一的な教育ではなく、子どもたちそれぞれの個性に合った多様な教育である。競争原理の導入で、そのことが果たして実現できるのか疑問だ。

審議会の公開が進む中、教育再生会議は非公開で議論される。国民の関心も高い教育改革を密室で話し合い、方向性を決めることは理解し難い。

委員には、学校現場への競争原理導入などを求める教育改革論者を多く起用しているとの指摘がある。

安倍首相は官邸主導で教育改革を進める意向とされるが、各委員はそれに左右されることなく、自由な論議を尽くすことを望みたい。

琉球新報 2006年10月19日

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教育再生 学力の底上げをめざせ

安倍首相直属の「教育再生会議」が発足した。首相が掲げる教育改革を具体的に練り上げる場である。

委員には各界から17人が起用された。経済界の人も学校の創設や運営の経験を持つ。教育委員会や小学校からも選ばれている。現場の実情を踏まえた論議を期待したい。

初会合のあいさつで、首相は課題として「学力の向上」を挙げ、教員免許の更新制や学校評価が必要だと力を込めた。さらに規範意識や情操を身につけるための方法を議論するよう求めた。

学力低下はさまざまな調査で明らかになっている。規範意識はモラルと言い換えてもいいだろう。その低下も多くの人がうなずくに違いない。

学力と規範意識を高めるのは、今の教育の重要な課題である。だが、この二つは切り離して考えるのではなく、つながりにこそ目を向けなければならない。

03年の国際的な学習到達度調査でも、学力の基本である読解力が3年前の調査に比べて落ち込んだ。読解力の高い層のレベルは変わらなかったが、低い層は一段と下がっていた。しかも、低い層の割合が他の国に比べて大きい。

学力低下の実態は、できる子とできない子の二極化というべきものだ。

授業についていけない子どもは、学ぶ意欲を失う。教室を捨てて非行に走り、投げやりになりがちだ。そうした子どもにいくら規範意識を説いても、聞く耳を持つまい。

先生の話を聞き、教科書を読む。そうした日々の授業こそが、学力を高め、規範意識を育てる何よりの場である。

まずは、どんな子にも学ぶ意欲を持たせるようにすることが大切だ。そのためには、少なくとも、これまで以上にきめ細かな指導が必要だろう。

学校ごとに競争させれば、すべてが解決するかのような意見がある。確かに競争は必要だ。しかし、いまの学力の二極化は、競争だけで解消できるほど生やさしいものではない。よほど慎重に進めないと、子どもたちや学校の間の格差をさらに広げることになりかねない。

やはり全体を底上げすることが必要だ。同時に、できる子の学力をいっそう伸ばすことを考えなければならない。

中曽根内閣の臨時教育審議会や小渕・森内閣の教育改革国民会議など、歴代内閣が教育の改革を掲げてきた。そのたびに振り回されてきたのが、子どもや父母、教師である。教育再生会議は、この繰り返しであってはならない。

日本が「学力大国」と言われたのは、そんなに昔のことではない。それが今では「二流国」と言われ、学力の格差の広がりに直面している。

どこでつまずいたのか。原因をきちんと究明してほしい。それをしないで、いくら方策を並べても、説得力はない。

「教育は百年の計」と言われる。小手先の対策ではなく、斬新で骨っぽい提言を聞かせてもらいたい。

朝日新聞 2006年10月19日

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教育再生会議スタート…「脱文科省」困難?

安倍首相が官邸主導の「公教育改革」を掲げ、18日に肝いりでスタートさせた教育再生会議。首相は文部科学省中心の教育政策づくりの転換を目指しているが、委員の人選や当面のテーマを分析すると、独自色は薄れつつあるように見える。

どこまで斬新な提言を打ち出せるのか。首相の「本気度」が問われる。(社会部 村井正美、政治部 橋本潤也)

■主導狙い

「『美しい国』を造る上での基盤は教育だ。志ある国民を育て、品格ある国家、社会をつくっていかなければならない」

会議の冒頭、首相は自著のタイトルの一部で、自民党総裁選でのキャッチフレーズにも使った「美しい国」という言葉をちりばめながら、持論を展開した。現在の教育行政は、主に教育専門家からなる中央教育審議会(文科相の諮問機関)の答申を受け、文部科学省が制度化を進めるやり方が一般的だ。しかし、「中教審への諮問内容は文科省当局が決め、中教審委員も自由な教育を許さない考え方になりがち」「中教審の審議は遅すぎる」などの批判が根強い。

首相には、「学力低下や規範意識の欠如などの問題は、従来の教育行政が原因との思いが強かった」(政府筋)。直属の会議を作ったのも、教育政策づくりの場を引き寄せ、自らの手で公教育再生の道筋をつける狙いからだ。会議後の記者会見で、山谷えり子首相補佐官は「来年1月に中間報告、6月までに予算化が必要な施策をまとめる」と明言した。来春の統一地方選、夏の参院選に向け、安倍政権の成果をアピールしたいという思惑が透けて見える。

委員数膨張首相独自色薄れる

■思惑外れ

安倍内閣発足当初、首相ブレーンの間では、「従来の教育行政と一線を画すため、人選に文部科学省・中教審色を出させない」との方針が既定路線のように語られていた。だが、早めの成果を求めるあまり、人選は文科省との対立を避け、「安全路線」に傾いていったようだ。

会議委員には、教育への競争原理導入に前向きと見られる葛西敬之、張富士夫両氏らのように、首相と同じ勉強会のメンバーも含まれている。だが、中教審の委員・臨時委員も、野依良治、中嶋嶺雄両氏ら6人が入り、小野元之・元文科次官も加わった。「ヤンキー先生」と呼ばれる義家弘介氏、「百ます計算」で知られる陰山英男氏ら著名人も選ばれた。事務局はテレビドラマで教師役を演じた女優の天海祐希氏にも打診したが、断られたという。

結局、委員数は当初の10人程度から17人に膨張した。関係者は「文教族の森元首相や、伊吹文科相、公明党などからの様々な推薦を受け入れたため」と解説する。会議に出席した政府関係者は「委員の考えがバラバラで、ごった煮だ。何をやりたい会議なのか全く見えてこない」と漏らした。

多彩なメンバーがそろったゆえに、議論も月2〜3回が精いっぱいだという。政府内では、「議論が少ないと、報告作りは文科省の影響力が強まるのではないか」との見方もある。報告に盛り込まれた改革内容について、すぐに法制化に取り組むのか。再び中教審でも詰めるのか。実現に向けた手順も見えない。

「9月入学」「バウチャー」議論後回しか

■成果優先

会議の議論は、ある程度方向性が見えているテーマが優先されることになると見られ、「しばらくは斬新な改革は出てこない」との見方が多い。

首相はこの日、「質の高い教育の実現と学力向上」「規範意識の育成」「家庭、地域の教育力向上」などの検討を要請した。まず、来年1月の中間報告までは、即効性が期待できて、国民の関心も高い「学力向上」問題などが優先的に議論されると見られる。

また、首相が導入を提唱している教員免許更新制も、中教審が今年7月、10年に1回更新する制度の導入を答申済みであることから、早めに議論されそうだ。ただ、委員の間には、「10年間、指導力不足の教師を放置していいのか」(白石真澄委員)などの意見もあり、再生会議の結論が中教審答申とは異なった形になることも予想される。

逆に、首相が総裁選前後に提唱して話題を集めた大学の9月入学制、教育バウチャー制度などの本格的な議論は、中間報告以降に先送りされる見通しだ。

大学の9月入学制については、「グローバルスタンダードのためには必要」(中嶋嶺雄委員)と賛成意見がある。ただ、入社時期の変更や、高校卒業から大学入学までの間の居場所づくりなど、課題も多い。入学までに奉仕活動を義務付ける構想もあるが、学生の受け入れ先の確保は容易ではない。

教育バウチャー制度では、生徒を多く集める学校ほど多くの予算が配分されるので、学校間に競争原理が働き、教育の質の向上が期待できるとされる。「これまで教育現場だけが競争原理とかけ離れていた」(渡辺美樹委員)など、支持する委員も少なくない。しかし、人気校と不人気校の二極化が進み、「さらなる格差を生むのでは」といった懸念も根強く、着地点がどうなるかは現段階で不透明だ。

教育バウチャー制度
行政がバウチャーと呼ばれるクーポン券を家庭に支給。各家庭が地域や公立私立に関係なく、行きたい学校を選んで、バウチャーを渡せば、その学校はバウチャーの量に応じた補助金を行政から受け取れる制度。

讀賣新聞 2006年10月19日

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学校評価制の検討へ 教育再生会議が初会合

安倍晋三首相が最重要課題と位置付ける「教育改革」を議論する「教育再生会議」(座長・野依良治理化学研究所理事長)の初会合が十八日、首相官邸で開かれました。

冒頭、安倍首相は「教育再生の最終的な大目標は、すべての子どもに高い学力と規範意識を身につける機会を保障することだ」と発言。今後の検討課題として、(1)教員免許の更新制度の導入(2)外部評価を含めた学校評価制度の導入(3)ボランティア活動の実施(4)大学や大学院の国際競争力の強化―などを挙げました。

初会合には野依座長ら十七人の有識者全員と塩崎恭久官房長官、伊吹文明文部科学相、下村博文官房副長官らが出席しました。再生会議は今後、論点を整理した上で、学校や地域・家庭教育の再生などテーマごとに三つ程度の分科会を設けて議論します。学校を予算で差別する教育バウチャー制度や学校選択制、大学の九月入学なども検討対象になる予定です。来年一月に中間報告、来年末をめどに最終報告を取りまとめる方針です。

会議終了後、記者会見した事務局長の山谷えり子首相補佐官は「学力向上の具体的な支援策や教員の免許更新制度の議論は、優先的にやらないといけない」と語りました。

解説

安倍流「改革」推進メンバーも

十八日に議論が始まった「教育再生会議」の主な検討課題は、子どもたちを競争に追いたて教育の格差を広げるものがずらりと並んでいます。臨時国会で安倍内閣が成立をねらう教育基本法改悪法案と一体となり、「勝ち組」「負け組」教
育の具体化・実施をめざす会議といえます。

検討課題のひとつ、「教員免許更新制度」の導入は、研究者から「教員の身分が不安定になることのマイナスの方が大きい」との危ぐが出ているものです。「学校評価制度」は「レッテル張りの基盤にもなり、学校の序列化を生む」と批判されています。

「教育バウチャー制度」は、親が選択した学校にバウチャー(利用券)を提出し、学校は生徒数(バウチャー数)に見合う予算を受け取るというものです。人気のない学校には予算も少なくなる仕組みで、学校間格差を一気に拡大します。「大学九月入学」は、高校卒業後に一定期間の「奉仕活動」を義務づけるねらいがあります。

再生会議には、一見多様な顔ぶれを集めたように見えますが、安倍流「教育改革」にふさわしい人物をしっかり配置しています。葛西敬之・JR東海会長は首相のブレーンです。張富士夫・トヨタ自動車会長は日本経団連副会長も務め、葛西氏とともに愛知県に中高一貫の全寮制男子校「海陽学園」を今年四月に設立。同校は教育方針に「国の核となる優れたリーダーを育てる」エリート養成を掲げています。

渡辺美樹・ワタミ社長は中高一貫校の理事長も務め、教師に成果主義賃金を導入。「だめな教師が集まっている学校はつぶれてもいい」(「日経」十月十三日付)と発言しています。白石真澄・東洋大教授は規制改革・民間開放推進会議の委員を務め、バウチャー制度について「競争環境がつくられ」ると推進姿勢を示しています。

門川大作・京都市教育長は京都市のすべての学校で外部評価を含む学校評価制度をトップダウンで導入した人物です。

「教育再生」の名のもとで教育の格差と競争をいっそう拡大する議論に監視と警戒が必要です。(小林拓也)

しんぶん赤旗 2006年10月19日

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子どものための改革を

首相肝いりの諮問機関、教育再生会議の初会合が十八日に開かれる。この会議を政権の看板にしたいようだが、政治や財界のためではなく、子ども一人ひとりのための改革にしてほしい。
教育再生会議

安倍晋三首相は教育改革を最重要課題とし、「すべての子どもに高い規範意識と学力を身につける機会を保障するため、抜本的な施策を推進する」(所信表明演説)と教育再生会議の狙いを説明している。

再生会議は中曽根内閣の臨時教育審議会(臨教審)、小渕・森内閣の教育改革国民会議に続く首相直轄の私的諮問機関だ。

臨教審は国会の審議を経て設置法に基づき設けられたが、教育再生会議は教育改革国民会議と同様に法に基づかないため、首相の考えを強く反映させることも可能だ。

「公教育の再生」は国民の多くが望んでいることだ。子どもの学力や学習意欲の低下、生きる力そのものの衰退に親は確かに胸を痛めている。学力を身につけさせる方策や教員の質の向上など、大いに英知を発揮してもらいたい。

論議が予定される、学校を選択するバウチャー制度など市場競争原理は、学校を活性化させる一方で学校間格差や学力格差を助長させてしまう。この点に懸念がある。

また、教員免許更新制度や学校評価制度の導入などは、既に六年前の教育改革国民会議の最終報告に大筋盛り込まれ、文部科学省や中央教育審議会が現在手がけている。

安倍首相は「幅広く議論を深めてもらいたい」というが、教育政策をつかさどってきた文科省や中教審との役割分担はどうなるのか。現場の混乱を招くようなことは避けたい。

教育再生会議の有識者十七人はエリート教育を主張する人も反対する人もいる。学者、経済人、文化人、教育者など実に多彩な顔ぶれだ。多様な意見を反映させてもらいたい。同時に議論の内容は国民に公開すべきだ。

これだけのメンバーなら、いっそ文科省の官僚的発想ではできない議論や提案も期待したい。

教育をめぐる問題は学校だけでなく、核家族化による親子関係の変化や地域社会のきずなの希薄化など、根は深い。現場の実態をどこまでくみ込んだ議論ができるかどうかだろう。

国内総生産(GDP)に対する教育費の割合は3・7%と先進国では最低ラインに落ち込んでいる。真の教育再生のためには予算措置が欠かせない。予算措置なしで教員や教育環境の水準を引き上げることが可能かどうかも疑問だ。

中日新聞 2006年10月18日

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教育改革:「再生会議」が初会合

政府は18日、安倍政権の最重要課題である教育改革を検討する「教育再生会議」(座長、野依良治・理化学研究所理事長)の初会合を首相官邸で開いた。安倍晋三首相は冒頭「すべての子どもに高い学力と規範意識を身につける機会を保障するために、公教育の再生や家庭・地域の教育力の再生が重要だ」との方針を示し、教員免許更新制度や学校評価制度の導入の検討を要請した。

来年1月に中間報告を出し、予算措置が必要なものは来年6月にもまとめる「骨太の方針」に盛り込む。

首相と17人の委員、伊吹文明文部科学相らが出席した。首相は具体的な検討課題として(1)質の高い教育提供による学力向上(2)規範意識や情操を身につけた美しい人づくり(3)地域ぐるみの教育再生−−の3点を提示。その後の討議では、いじめによる生徒の自殺も取り上げられ、義家弘介・横浜市教育委員が「脱落した子を受け入れる仕組みがない」と新たな制度づくりの必要性を強調した。

今後は月内にも分科会を設置し中間報告の取りまとめ作業に入る。首相の要請を踏まえ、教員免許更新制度のほか全国的な学力調査、学校評価制度などについて議論を進める。政府は来年の通常国会に、中間報告を反映させた学校教育法改正案を提出する方針。

一方、首相が提唱する大学の9月入学制や教育バウチャー(利用券)制度の導入は与党や教育界に抵抗感が根強く、本格議論は中間報告後に先送りする方向だ。【平元英治】

==============
 ■教育改革の予想される日程■
<06年>
10月18日  教育再生会議・初会合
   23日? 衆院教育基本法特別委が審議を再開
   25日  教育再生会議・分科会設置?
12月     07年度予算で関連施策盛り込み
<07年>
 1月   教育再生会議・中間報告
      通常国会に関連法の改正案を提出(学校教育法、教員免許法など)
      文科省が学習指導要領見直し(06年度内)
 4月以降 教員免許更新制、学力テストの実施
12月?  教育再生会議・最終報告

毎日新聞 2006年10月18日

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野依・教育再生会議座長インタビュー

安倍政権の最重要課題である教育改革を議論する「教育再生会議」の野依良治座長は17日、時事通信社などのインタビューに応じ、来年1月にも中間取りまとめを行いたいとの考えを明らかにした。主なやりとりは次の通り。

−座長を引き受けた理由は。

「美しい国、日本」をつくろうという安倍晋三首相に大変、共感を覚えた。教育を通じていかに具体化していくかが大きな課題だ。日本の教育のあり方を提示できればと思っている。

−現在の教育の問題は。

日本人として最小限の規範、生きていくため一定の力を持つことが不可欠だが、学校教育だけではできない。家庭や地域などが一致協力して次世代をつくる意識が必要だ。大学生や大学院生が国際水準の力を持ってないと、日本は国際競争力を保ち得ないことも議論してほしい。先生の免許の問題も大事だが、ちょっと事柄を矮小(わいしょう)化している。

−会議の進め方は。

分科会のようなもの作って議論していく。数回は自由に議論することから始め、その中で重要と思われる課題を選んでいく。

−首相は教員免許の更新制度などの検討を打ち出しているが。

何をもっていい先生とするか大変難しい問題だ。人格や人柄が(要素として)大きいが、試験してというのは相当難しい。

−学校の自由な選択を可能にする「教育バウチャー制度」の導入については。

みんなが立派な教育を受ける権利はあると思う。それをどう保障するかが難しい。

−大学での9月入学の導入は。

一長一短ある。

−文部科学省や中央教育審議会との住み分けはどうする。

文科省は学校教育を中心に議論しており、それは多としないといけないが、教育は学校だけで行うものではない。(再生会議では)広く教育面の事柄を議論する。事が学校教育にかかわってくると、中教審の議論はそれなりに重みがある。

−どの段階で中間取りまとめを行うのか。

 官邸の方では、1月ぐらいに何らかのまとめをしたいという希望だ。(了)

時事通信 2006年10月18日

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「学力と規範意識」重視を=教育再生会議が初会合

政府は18日午前、安倍政権の重要課題である教育改革を議論する「教育再生会議」(座長・野依良治理化学研究所理事長)の初会合を首相官邸で開いた。冒頭、安倍晋三首相は「教育再生の最終的な大目標は、すべての子どもに高い学力と規範意識を身に付ける機会を保障することだ。そのために公教育の再生などが重要だ」と述べ、教育再生に向けた具体案づくりを求めた。

再生会議は、来年1月に中間報告、来年末をめどに最終報告を取りまとめる方針。首相は今後の検討課題として(1)教員免許の更新制度の導入(2)外部評価を含めた学校評価制度の導入(3)人間性や社会性を磨くためのボランティア活動の実施(4)大学や大学院の国際競争力の強化−などを挙げた。

初会合には野依座長ら17人の委員全員と塩崎恭久官房長官、伊吹文明文部科学相らが出席した。再生会議は、25日に第2回の全体会議を開催。論点を整理した上で、学校や地域・家庭教育の再生などテーマごとに3つ程度の分科会を設けて具体策を議論する。大学の9月入学、学校の自由な選択を可能にする教育バウチャー制度なども検討課題となる見通しだ。

会議終了後、記者会見した事務局長の山谷えり子首相補佐官は「学力向上の具体的な支援策や教員の免許更新制度の議論は、優先的にやらないといけない。1月の中間報告にはその辺が盛り込まれると思う」と語った。(了)

時事通信 2006年10月18日

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首相「規範意識」を強調 教育再生会議

安倍晋三首相が政権の最重要課題に位置付ける「教育再生」の具体策を検討する教育再生会議の論議がスタートした。事前の報道などでは「バウチャー制度」や「大学の9月入学」などが審議内容としてクローズアップされていたが、安倍晋三首相はあいさつで、規範意識や家庭の教育力を強調し、「美しい国」に向けた具体策づくりを求めた。

安倍首相は「教育の目的は、志ある国民を育て、品格ある国家社会をつくること」として、教員免許更新制度や学校評価制度の導入が必要との認識を表明。

さらに「規範意識や情操を身に付ける方策を議論いただきたい。体験活動や奉仕活動を行い、人間性や社会性を磨くことが必要。わが国の伝統や文化を学ぶことも重要だ」「家庭や地域の教育力を高める方策も検討してほしい。大人の在り方、子育てや働き方、企業の在り方も取り上げてほしい」と語った。

ただ、審議の行方には不透明な面もある。安倍首相のブレーンは葛西敬之JR東海会長だけで、元文部科学事務次官の小野元之日本学術振興会理事長が入るなど、官邸主導の大胆な改革の実現に疑問の声も出ている。

教育基本法改正や国旗・国歌をめぐって政府を批判してきた義家弘介横浜市教育委員▽共産党機関紙に頻繁に登場するエッセイストの海老名香葉子さん▽「ジェンダーフリー」を掲げる池田守男資生堂相談役▽フェミニスト的子育て観を表明してきた白石真澄東洋大教授−らも委員に就任しており、安倍首相が思い描く教育の形にすることができるかどうか、今後の審議が注目される。

産経新聞 2006年10月18日

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教育問題を最重要視  ― 安倍政権 文科省任せず首相直々で

戦後生まれ、52歳になったばかりの安倍晋三首相が誕生した。4年前、小泉内閣の官房副長官に登用された時から、年に似合わず硬派の政策を打ち出して注目され、特に北朝鮮による拉致事件の処理については強硬な対応を主張、被害者家族の絶大な信任を勝ち取ったことで一躍有名になった。その人が首相になったのだから、さぞかし安全保障などの問題でタカ派的な姿勢を見せるのではと思われたが、どうやら一番力を入れているのは教育問題であるようなのだ。

安倍首相は組閣に当たって首相官邸の強化に力を入れた。その一つに大物の政務補佐官5人を任命したことが挙げられる。その顔触れを一応ご紹介しておくと、小泉内閣で環境大臣を務めた小池百合子氏(国家安全保障問題担当)、根本匠氏(経済財政担当)、中山恭子氏(拉致問題担当)、山谷えり子氏(教育再生担当)、世耕弘成氏(広報担当)の5人である。根本氏は安倍首相とは「仲良し4人組」で知られる共通の価値観で結ばれた同志的存在の国会議員。中山氏は内閣参与として北朝鮮からの拉致被害者救済に最も力のあった人で、関係者の信頼も極めて厚い。官房副長官時代の安倍首相ともウマが合った仲だ。広報担当の世耕氏はNTT時代に広報課長として磨きをかけ、常に安倍首相に党のメディア戦略を説いてきた参院議員である。

こうした中で、異彩を放ったのが山谷えり子参院議員の教育再生担当補佐官であった。民主党から保守新党に移り、さらに自民党へと政党歴は多彩だが、民主党時代からジェンダーフリー教育や行き過ぎた性教育に反対する運動に取り組み、その行動によって安倍首相が当時から注目していたという。その首相は政権公約として「教育再生」を掲げて選挙戦に臨んだ。小泉政権の亜流といわれるのを避けたいとし、郵政民営化や道路公団改革に重点を置いた小泉政権との違いを明確にするために、あえて教育改革を政権目標の中心に据えたのである。その仕事の中心は新設する教育再生会議(仮称)の執行である。戦後体制からの脱却を目指す安倍首相にとって、その目的を果たすためにまず必要なことは戦後教育の抜本的な見直しである。それを文部科学省に任せず首相直々でやろうといわけだ。そこで白羽の矢を立てたのがかねて意中の人の山谷氏であった。

ところが、早くも文部科学省から待ったがかかった。9月28日に開かれた中央教育審議会で新任の伊吹文明文科相は、「教育問題はこの中教審の審議によって進めていく」とあいさつし、官邸が進めている方針に真っ向から反発したのである。伊吹文科相は今回の安倍政権誕生に当たって、伊吹派をまとめて安倍氏当選に貢献した。大臣任命はその論功行賞とみられているが、伊吹氏自身はそれほど教育問題に精通しているわけでもなさそうだ。安倍氏がそれを熟知してあえて文科相に充てたのは、逆に考えると教育改革は自分が陣頭に立って行うとの意思表示だったのかもしれない。山谷氏をわざわざ引っ張ってきて首相補佐官に据えたことの意味を伊吹大臣はもっと真剣に察知すべきであった。山谷氏はかねがね最近まで文部科学省が取ってきたジェンダーフリー教育が「過激な性教育を生んだ」と批判してきた。国会で性行為を図解した教材を取り上げて小泉首相に質問したこともあるほどだ。

それに、安倍氏はすでに9月の自民党総裁選挙の公約として、首相官邸主導で教育改革をするための推進会議を立ち上げる意向を示している。当時「教育改革推進会議」と唱えていたのがそれである。その名の通りの会議になるかどうかはともかくとして、教育再生を真正面に掲げた会議になるはずである。それを仕切るのは文科相ではなく、この山谷氏なのである。ただ、困ったことには政府にはこれまで中央教育審議会という文科相の諮問機関があって、教育問題の主要テーマはこの機関に政府から諮問され、その答申によって政府の方針が決められてきた。ただし、そこで出た結論はおおむね文科省が予め提出した素案に沿って答申されるのが通例であった。このため、一種の「隠れみの審議会」だとの批判が絶えなかったのである。  安倍首相の方針としては、この新設する教育再生会議(仮称)を中央教育審議会より上位に位置付けするだけでなく、会議の議長には首相が自らなり、迅速な改革を図りたい考えのようだ。改革の具体的な課題としては、@学力の向上A教員の質の確保B学校評価制度の導入―などが考えられているという。安倍首相が教育問題にこんなに固執するのは、日本という国の国づくりをするに当たって、その中核に教育を位置付けているからである。これまで教育行政の主要な方針は中教審議で決めてきたが、この審議会は結論が出るまでに数カ月から数年かかり、安倍氏周辺ではかねて「ここ任せではとても迅速な教育改革は実現できない」との思いが強かった。小泉内閣時代は構造改革の中心はあくまで郵政民営化などに限られ、教育改革には力を注いだ形跡がない。安倍氏にとっては小泉首相との違いを明白に内外に示すためにも教育重視は恰好のテーマになるはずである。本当は小泉時代に懸案の教育基本法は改正しておくべきであった。自民党は乗り気であったが、小泉首相は成立に意欲を示さず、通常国会の会期中の成立がかなわず継続審議になった。次の臨時国会では一日も早くこの改正案を成立する必要がある。それには官邸主導で事を進めることである。それが成功すれば安倍首相にとっての最初の「壁」となる来年の参院選対策としても有効なはずである。おそらく安倍氏にとっては教育重視はそうした思惑もあってのことであろう。

三菱総合研究所などが実施した調査によると、子供の学力低下の原因は「ゆとり教育」が導入されたためと指摘する親が65・6%にも及んでいることが分かった。この調査によると、ゆとり教育の問題点について「学習内容の削減」と「授業時間の削減」を挙げたのが各8割に達していたという。このため、「学習内容の見直し」とか「教員の質の向上」といった指摘が上位を占めた。安倍首相が教育再生を主張する根拠は十分あるといっても過言ではないのである。今のところ首相サイドでは新設の教育再生会議で問題点の洗い出しを行い、来年3月ごろまでに結論を出したい意向である。新しい発想としては、社会みんなで助け合って生きているのだということを実体験してもらうために、ボランティア活動を必修化しようとする案も計画されており、このために大学入学を9月にして、高校卒業の3月から半年間か少なくとも半分の3カ月は介護施設などでの奉仕活動に当たらせ、その経験がないと大学に入学させない、といったことも考えられている。

外国では青年が一定年齢になると、必ず1年か2年の軍隊経験をさせている。かつての日本も20歳になると徴兵といって強制的に軍隊に入ることが義務付けられた。戦後はそういうことが一切なくなった。今、考えられているのは、徴兵の代わりにボランティア活動の義務化である。安倍構想の大学9月入学案も恐らくそういった考えが基本にあるのだと思われる。これが実現すれば恐らく今、社会問題化している青少年の非行やニート問題などは簡単に解決するのではないだろうか。若い子供の親殺し、若い親の幼児殺しなど、最近はこれまで経験もしなかった事件が多いが、これなども教育に原因があるということができる。とにかく新内閣のお手並み拝見というほかない。 (伊勢新聞社東京支社嘱託・河本 弘)

伊勢新聞 2006年10月―

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教育再生会議 骨太の議論ができるか

初会合が開かれる前からけちをつけるようで気が引けるが、果たしてこの顔触れで論議すべきテーマだろうか。安倍晋三首相の肝いりで発足する「教育再生会議」の中身のことだ。

座長にはノーベル賞学者の野依良治氏を据え、財界の大物や元五輪選手など十六人が委員に並んだ。確かに多彩ではある。だが、会議で検討されるとみられるのは技術的、具体的な事項が多い。

安倍首相が教育改革の本丸と位置付ける教育基本法改正は、既に国会に提出済みである。各界を代表する論客が「教員免許更新制度」や「学校の外部評価制度」などを論じることがふさわしいだろうか。事務局案にこだわらず、骨太の教育論議を展開してほしい。

再生会議は小渕―森内閣時代の教育改革国民会議と酷似している。ノーベル賞学者が座長を務め、劇作家の浅利慶太氏がにらみを利かす。元メダリストを取り込んだのも同じである。今回は労働界代表がいないのが違うぐらいのものだ。

国民会議は「飲み屋談議」と酷評された。各人が自分の思いの丈をぶつけ合うことに終始したからだろう。再生会議には同じマ轍(てつ)を踏んでほしくない。野依座長の仕切りに期待したい。

問題は、再生会議が扱うテーマが「教育機関改革」に絞られているように見えることである。免許更新制をはじめ学校選択制、教育バウチャー(利用権)の導入、大学の九月入学制など、いずれも大事な論点だが、教育再生に直結する話かとなると疑問が残る。

教育は一本の木に例えることができる。枝や葉が枯れかけたからといって、表面に薬剤を振り掛けても効果はない。枯れた原因は見えない土中にあるのだ。

今の教育危機は制度改革で切り抜けられるほど単純なものではあるまい。家庭環境や社会制度、経済構造にもメスを入れて切開する必要がある。再生会議は、教育危機の根源に切り込むべきだ。

あくまで制度改革に重心を置くというなら、この人選はミスマッチというしかない。現場の教師や教育学者がほとんど見当たらないからだ。

野依座長は「技術的なことは専門家が考えればいい。会議では骨太の考えが出ればいい」と抱負を語っている。その姿勢を貫いてもらいたい。

文部科学省や会議を主導する首相官邸サイドへの遠慮も無用である。対話の相手はあくまで国民だ。途中経過を含めて広く討議内容を公開し、批判を仰ぐべきである。教育再生は安倍内閣の目標というより国民的課題と心得てほしい。

新潟日報 2006年10月15日

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[教育再生会議]何をするのか見えない

教育重視を掲げた安倍晋三首相肝いりの「教育再生会議」のメンバー17人が決まった。官邸主導の改革案を審議して、来年3月に中間報告を取りまとめるという。

教育関連の首相直属の諮問機関は、中曽根内閣の臨時教育審議会、小渕、森両内閣の教育改革国民会議以来だ。文部科学省・中央教育審議会主導の改革と一線を画すという触れ込みが目を引く。

座長にノーベル化学賞受賞者で理化学研究所理事長の野依良治氏、担当室長に横浜市教育委員で「ヤンキー先生」こと義家弘介氏を起用した。他にも各界の著名人がそろい、顔ぶれは多彩だ。

しかし、メンバーを見渡しても、再生会議が目指す方向性は見えず、明確なメッセージが伝わってこない。それどころか文科省の次官や部長経験者を委員や事務局に登用しており、文科省と距離を置く方針とはかけ離れている。

メンバーに教育現場の実情に通じている人が少ないのも気になる。連合など労働組合関係者や教育学の専門家は入っていない。これでは幅広い意見を戦わせ、踏み込んだ議論ができるのか心配だ。

当面、全国学力テストの徹底や教員免許更新制、国による学校評価制度などが検討されるが、いずれも既に文科省がレールを敷いたものだ。再生会議メンバーが教育現場の実態に鋭く切り込めなければ、結局は事務局主導になりかねない。

現場が何を求めているのか、問題の所在がどこにあるのか、事実を踏まえて検証し、再生会議としての診断を世に問うところからまず始めるべきだろう。

懸念されるのは、再生会議を山谷えり子首相補佐官と下村博文官房副長官がリードしていることだ。2人は学力低下の問題で「ゆとり」という言葉で象徴される現行の学習指導要領を、「ゆるみ教育になってしまった」と批判している。

山谷氏は民間のシンポジウムで、官邸が学習指導要領を見直す発言をしたと伝えられるが、政治が力ずくで教育に手を突っ込むようなことは許されない。学力テストや学校評価の導入で学校や個人を競わせても、救われるのは少数の上位層だけであることを忘れてはならない。

2人は「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」のメンバーでもある。議員の会は「新しい歴史教科書をつくる会」と根っこでつながる。政治主導の再生会議の設置が保守色を強めることに狙いがあるようで気になる。教育現場を混乱に陥れるような再生は願い下げだ。

南日本新聞 2006年10月15日

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教育再生会議 まず問題の所在を探れ

少年犯罪が後を絶たない一方、子どもの学力低下が指摘される。日本の教育は一体どうなってしまったのだろうと感じる人は少なくないはずだ。

教育をどうするかは、現在のわが国にとって何にもまして重要な課題だ。一人一人が幸福を追い求めるためにも、資源のない国としてどう生き残っていくかにも、「人づくり」が欠かせないからである。

その意味で安倍晋三首相が最重要施策として「教育再生」を掲げたのは当然だ。人々が実感している危機感や「何とかしなければ」との思いをすくい取ったともいえるだろう。

問題はその先にある。さまざまに語られる教育の諸課題をどう認識し、どの方向にどんなふうに持って行くのか。慎重かつ十分な検討が欠かせない。

安倍首相の教育改革を具体化する首相直属の諮問機関「教育再生会議」が動きだした。メンバーが決まり、今週にも初会合を開く予定だ。

迅速にという安倍首相の意向を受けて、会議は来年3月まで中間報告、来年末までに最終報告をまとめる見込みという。

素早い対応は評価できる。しかし、「迅速」が「拙速」に陥らないよう、注意深さが必要だ。人づくりの要である教育は何10年先、できれば100年先、200年先を見越したものでなければならないからだ。

有識者メンバーが学者や経済人、現職教師、元五輪メダリストらと多種多様にわたったのは、安倍首相の保守色を薄め、広範な意見を吸い上げようという意図からではあろう。

しかし、逆にいえば、まとまりがつくのかという懸念も残る。座長となったノーベル化学賞受賞者の野依良治・理化学研究所理事長の力量が問われる場面が多くなりそうだ。

再生会議の性格がまだあいまいな点も気になる。初会合以降、会議の在り方を含めて協議するつもりなのかもしれない。

しかし、教育制度の抜本的な見直しまで踏み込むのか、個別課題ごとに即効性のある方策を探しだそうとするのか、一定の方向性はなるべく早めに決めるべきではないか。

その際、最も肝要なのは、現在の日本が抱える教育問題の所在や本質をどう見極めるかだ。正確に診断しなければ、適切な処方は打ち出せない。

確かに子どもの道徳心の低下は著しい。しかし、だからといって、教育基本法に「公共の精神」や「国を愛する態度」を盛り込めば解決できるほど、今の教育問題は生易しくはない。

教育現場が実践しやすい方策を模索するのも再生会議の務めとなる。いくら高い理想を掲げても、現場の理解が得にくかったり、実践するのが難しかったりすれば、絵に書いたもちにすぎなくなる。かえって混乱のもとにもなりかねない。

文部科学省や中央教育審議会主導の改革とどう折り合いをつけるかも難題だ。既に初会合前から再生会議に対する「抵抗」が垣間見えるのだ。

次代を担う子どもをどうはぐくむか。再生会議には、政治的な思惑や省益とは無縁な立場で、この一事に絞っての真剣な討議を期待してやまない。

秋田魁新報 2006年10月15日

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教育再生会議 まず事実評価から出発を

教育重視を掲げた安倍晋三首相肝いりの「教育再生会議」のメンバーが決まった。来週にも初会合を開き、官邸主導の改革案を順次提言するという。

首相直属の諮問機関は、中曽根内閣の臨時教育審議会、小渕、森両内閣の教育改革国民会議以来。文部科学省・中央教育審議会主導の改革と一線を画すという触れ込みだ。

しかし座長に決まったノーベル化学賞受賞者の野依良治・理化学研究所理事長、担当室長の「ヤンキー先生」こと義家弘介・横浜市教育委員らメンバーを見渡しても、どういう方向を向いているのか、明確なメッセージは伝わってこない。それどころか副室長に、かつて教育改革国民会議の事務局で中心的役割を果たした山中伸1・前文科省私学部長を据え、委員に元文部科学次官の小野元之・日本学術振興会理事長を任命しているのをみると、文科省と一線を引くという当初方針はどこへいったのか、という印象は否めない。

当面、全国学力テストの徹底や教員免許更新制、国による学校評価制度などが検討事項とされるが、いずれも既に文科省がレールを敷いたもので新味はない。

メンバーに教育現場の実情に通じている人が少ないのも気になる。制度に踏み込んだ議論というより、委員それぞれが持論をぶつけ合う展開になれば、結局は事務局主導で、ということにもなりかねない。

まずは教育現場のニーズはどこにあるのか、事実を踏まえて検証し、問題の所在がどこにあるのか、再生会議としての診断を世に問うところから始めるべきだろう。

気になるのは学力問題の行方だ。再生会議をリードする山谷えり子首相補佐官や下村博文官房副長官は「ゆとり」という言葉で象徴される現行学習指導要領について「ゆるみ教育になってしまった」と批判、安倍首相も「ゆとり教育の弊害で落ちてしまった学力」と決め付けている。小野元次官も現役時代にゆとり路線修正を試みたことで知られている。

しかし昨年来、指導要領改定作業を積み上げてきた文科省や中央教育審議会は「指導要領の趣旨はよかったが、手だてに課題があった」として趣旨徹底を目指し、逆方向を向いている。

まずは事実の評価から出発すべきだ。学力問題の引き金となった国際学力調査の評価では読解力の順位が低下したことが大きな話題になったが、実は、低学力の子どもの増加の方が深刻だ。親の年収により学力格差が広がっているとの調査結果もある。

こうしたデータを議論の俎上(そじょう)に載せ、問題の所在を丁寧に探ってほしい。山谷氏は民間のシンポジウムで、官邸がカリキュラムを見直すと発言したと伝えられるが、政治が力ずくで教育内容に手を突っ込むようなことは願い下げだ。

全国学力テストや国による学校評価の導入で学校や個人を競わせても、そこで救われるのは、それこそ少数の上位層だけであることも忘れてはならない。

世界標準から見れば日本の公教育水準はトップレベルにある。だが、国内総生産(GDP)当たりの公教育費は経済協力開発機構(OECD)加盟国でも最低レベル。40人学級は安上がり教育の象徴だ。再生会議はこうした事実にこそ目を向けてほしい

岐阜新聞 2006年10月14日

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教育再生会議 現場実態を踏まえた論議を

ノーベル化学賞受賞者の野依良治氏を座長とした「教育再生会議」が設置された。安倍晋三首相が「すべての子どもに高い学力と規範意識を身につける機会を保障するため、公教育を再生する」と、重要課題に掲げた「教育再生」の具体策を検討する。

首相直属の教育諮問機関が設けられるのは中曽根内閣の「臨時教育審議会」、小渕・森内閣の「教育改革国民会議」以来だ。

政府からは首相、伊吹文明文科相らが入り、官邸主導で改革を進める。

メンバーに選ばれた民間の有識者十七人の顔触れは多彩だ。野依氏のほか、JR東海の葛西敬之会長、「ヤンキー先生」で知られる横浜市教育委員の義家弘介氏、ソウル五輪銅メダリストの小谷実可子さんら各分野の第一人者や著名人が名を連ねている。「多様なメンバーで国民的議論にしたい」(安倍首相周辺)との狙いだ。

いじめや不登校、校内暴力、学力やモラルの低下など教育をめぐる課題は山積し、国民の関心は高い。首相は教育基本法の改正も目指しており、戦後教育を根本から見直す意向だ。国民に深くかかわる重要な課題であり、開かれた議論を通じて、説得力のある提言をまとめてもらいたい。

首相はこれまで、改革の具体策として「教員免許の更新制度」「学校評価制度」のほか、自治体が配布する利用券を使って学校を選択できる「教育バウチャー制度」などの導入を提唱している。

具体策からうかがえるのは「競争原理」を教育現場に導入することで“質の向上”を図ろうという市場主義的な考えだ。改革のモデルは一九八〇年代末のサッチャー元首相に代表される英保守党の教育改革だといわれる。

有識者メンバーにも同様な考えを持った論者が目立つ。一方、臨教審や国民会議と違い、労働界関係者や教育学の専門家は選ばれなかった。官邸主導で改革を急ぎたいからだろうが、現場に通じたプロの見識を軽視しては素人論議にもなりかねない。

競争はエリート養成や個性的な学校を育成するには有効だろう。だが、現場が抱えるさまざまな問題がそれで解決するものでもなかろう。一方で新たな「格差」を生むとの声もある。ただでさえ経済的な格差が広がっており、懸念の声が出るのも当然である。

英保守党の改革では人気校周辺に裕福な中間層が集まり、不人気校の周辺には移民や失業者家庭が集中するという「勝ち組」「負け組」の図式を生んだ。引き継いだブレア労働党政権は教育予算の大幅増で見直しをせざるを得なかった。

機会均等が保障された教育の世界に競争をどこまで導入するかについては、国民的な議論が必要だ。経済協力開発機構(OECD)が加盟三十カ国の二〇〇三年の国民総生産(GDP)に対する教育費の公的支出の割合を調査したところ、日本は最低レベルだった。教育改革の論議が低予算の実態を隠すようなことになってはならない。こうした問題も直視すべきだろう。

メンバーには現場の実態と声を踏まえて改革の方向を探ってほしい。

熊本日日新聞 2006年10月14日

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教育再生 競争原理はなじまない

安倍晋三首相の諮問機関「教育再生会議」のメンバーが決まった。顔触れをみると、官邸主導で学校選択制、学校評価など、競争原理を取り入れた教育改革を具体化させる狙いがにじむ。

教育を良くしたいというのは多くの人の思いだ。しかし、競争を促すことで子どもたちが抱える問題が解決するわけでない。学校の選択肢が限られる地方の視点も踏まえる必要がある。無理押しは避けるべきだ。

有識者17人のうち、経済界からは積極的な教育改革論者が加わった。JR東海の葛西敬之会長は、首相の財界ブレーンの1人。トヨタ自動車の張富士夫会長とともに、愛知県に今春開校した中高一貫性の男子校設立に取り組んだ。同校はエリート養成に力を入れている。

ワタミ社長の渡辺美樹氏は、居酒屋チェーンのほか、学校法人の経営に携わる。メンバーの1人、白石真澄東洋大教授と同様に、保護者が学校を選び、子どもの数に応じて予算配分する「教育バウチャー制度」の推進論者だ。

一方、「百マス計算」で知られる陰山英男立命館小学校副校長も加わった。教員免許制には批判的な立場だ。多彩なメンバーを集め、保守色を薄めようとした印象もある。

同会議は来週にも初会合を開き、来春をめどに中間報告をまとめる。第三者による学校評価、教員免許の更新制、学校選択制、大学の9月入学と奉仕活動義務付けなどについて話し合う予定だ。

安倍首相の教育改革策は、さまざまな問題を抱えている。たとえば、バウチャー制度だ。私立と公立の競争があり、周囲に通える学校が数多くある大都市圏でなら成立する理屈だ。通える学校が1つしかない地域では、選択しようもない。子どもが少ない学校への予算が減るとすれば、小規模校ほど運営は厳しく、廃校につながりかねない。

保護者や子どもが学校を選ぶ権利はあってしかるべきだが、一度「問題がある学校」という評判が出ると、レッテルを変えるのは簡単ではない。いい学校、悪い学校の二極分化が進むおそれがある。交通費をかけても遠くの学校に通わせられる家庭と、そうでない家庭の教育格差も大きくなるだろう。

最近の教育改革や教育基本法改正の動きは、政治、経済主導で進んできた。ゆとり教育からの揺り戻しなど、現場は国の方針転換に振り回されてきた。そこに新たな制度が加われば、ますます教師が子どもに向き合うゆとりを無くしてしまう。

学校にいまこれ以上の競争を持ち込むことには、慎重でありたい。

信濃毎日新聞 2006年10月13日

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教育再生会議 特効薬は期待しないが

教育の再生を目指す専門家が英知を集めれば、特効薬が生まれるのではないか。そんな期待をしがちだ。しかし現実にはそうした特効薬はあり得ない―というクールな認識からスタートしたい。

「教育再生会議」の新設が決まった。安倍晋三首相に直属する諮問機関である。ノーベル賞学者である野依良治氏を座長に、トヨタ自動車会長の張富士夫氏、「ヤンキー先生」として知られる義家弘介氏、居酒屋チェーンを展開する渡辺美樹氏ら十七人だ。

教育基本法の改正を掲げる首相と、国会で性教育バッシングをした山谷えり子首相補佐官による人選だから、超タカ派の集まりかと懸念した。ふたを開けてみると意外にもバランス感がある。

ただあまりに多方面からの寄せ集めだ。論議がかみ合うのだろうか。現場の人も少なすぎる。「大所高所」から子どもたちの心の機微が分かるだろうか。

疑問はまだある。首相は、公教育で「高い学力」と「規範意識」を保証したいと述べ、再生会議をそのエンジン役と位置付けた。ところが初会合の前から(1)教員免許の更新制(2)外部による学校評価(3)基礎学力強化プログラム―などの具体論に言及している。諮問といいながら結論がちらついている。

もう一つ。確かに、学力低下と規範意識の緩みは多くの人が実感する。何とかしなければと思う。ただ気になるのは、それが一方的に「しつけのできない親」と「指導力不足の教師」のせいにされているように見えることだ。

「下流社会」でもがいたり、成果主義で疲れ果てたりして、子どもを受け止める余裕のない親がいる。満たされなさから攻撃に転じたり、消費社会の快楽に走る子がいる。そして校内事務に忙殺されて社会と子どもの変化に対応できない教師…。問われるべきはそうした人々を生む「構造」であり、会議はそこに切り込めるのか。

もちろん見識ある人の集まりである。分野が違うからこそ討議の中で思わぬアイデアやヒントが出ることは期待できる。それは大切にして、報告書を読めば誰でも使えるような共有物にしたい。

「これまで上からおりてくるものでいいものはなかった。今回も空々しい」と教育委員会でぼやきを聞いた。本音だろう。現場を振り回すことなしに「これなら採り入れたい」と思わせる内容をどれだけ報告書に盛り込めるか。そこに会議の存在意義を求めたい。

中国新聞 2006年10月13日

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教育再生会議 抜本改革で脱戦後めざせ

公教育の再生をめざす安倍晋三首相直属の諮問機関「教育再生会議」のメンバーが決まった。ノーベル賞受賞者や財界の重鎮、元文部科学事務次官、中央教育審議会の委員、スポーツコメンテーターら多彩な顔ぶれだ。

極力、安倍カラーを抑えようとしたようにみえる。戦後教育のしがらみにとらわれがちな国立大学教育学部などから1人も選ばれなかったことは、評価されてよいだろう。

会議には、安倍首相をはじめ、塩崎恭久官房長官、伊吹文明文科相が原則として出席し、山谷えり子首相補佐官が事務局長を務める。経済財政諮問会議と似た位置づけだが、文科省や中教審の意向も、伊吹文科相らを通じて十分に反映されるだろう。省益などにこだわらず、官邸主導による迅速な決定が望まれる。

会議ではまず、学力向上や学校評価制、教員の質向上などの問題が協議される。来春には全国一斉学力テストが行われ、学校の自己評価も始まっている。問題は、それらをいかに実効ある制度として機能させるかだ。各学校の学力水準を比較・分析し、それを国の学校評価に生かす方法などが検討されることになろう。

教員免許更新制についても、7月の中教審答申で、10年ごとに講習を受けないと免許が失効する仕組みを導入すべきだとする方向性が示されている。だが、それは指導力不足教員、いわゆる「問題教師」を教壇から排除することを目的としたものではない。問題教師の排除を含めたドラスティックな制度改革が必要である。

安倍首相が掲げる大学の9月入学とそれまでの半年間の奉仕活動や、教育バウチャー(利用券)制なども、真剣に検討してほしい。特に、奉仕活動は、小渕恵三、森喜朗元首相の私的諮問機関「教育改革国民会議」で提言されながら、内閣法制局からブレーキがかかり、教育現場で徹底されなかった経緯があり、重要な再検討課題だ。

公教育の再生には、学力に加え、規範意識の育成も大切である。最近、小学生が教師に手をかけたりする事件が増えている。大人と子供を対等に扱おうとする誤った教育観の影響ともいえる。戦後教育のゆがみを正す役割を、教育再生会議に期待したい。

産経新聞 2006年10月12日

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[教育再生会議]「『官製改革』の殻破る提言を」

安倍政権の目玉となる「教育再生会議」が船出した。

「すべての子どもに高い学力と規範意識を身につける機会を保障するため、公教育を再生する」。首相が繰り返し述べてきた「教育再生」の具体策を、17人の有識者委員らが討議する。まとまったものから順次、提言していくという。

首相直属の教育諮問機関がつくられるのは中曽根内閣の「臨時教育審議会」(1984〜87年)、小渕・森内閣の「教育改革国民会議」(2000年)以来のことだ。看板に掲げた「教育再生」に、具体的成果が上がるよう、首相自身が指導力を発揮すべきだ。

再生会議の提言については、中央教育審議会や文部科学省が進める教育改革との整合性を心配する声がある。

教員免許の更新制は、すでに文科省が中教審答申を受けて、実施に向けた制度設計の最中だ。第三者機関による学校評価も、答申に沿い、9月から全国124の公立小中学校で試行を始めている。

大枠を決めて方向性を打ち出すのが再生会議、その具体策を検討するのが中教審・文科省といった「棲(す)み分け」が内々に合意されているという。混乱が生じないよう、一定の調整は必要だ。

だが、多くの国民が望むのは、これまでの「官製改革」の殻を打ち破るような提言だろう。従来の改革路線の枠内にとどまっていては、教育再生の実現は難しいのではないか。再生会議に「期待はずれ」の批判も出てくるだろう。

今のところ、「教育バウチャー(利用券)制」や「大学の9月入学制」の導入、「奉仕活動の義務化」などが検討議題の候補に挙げられている。

バウチャーには、競争原理導入による公教育の活性化が期待できる反面、「学校間格差が広がり、つぶれる学校が出る」といった反発がある。

「9月入学」にも産業界や教育界には慎重論が根強い。臨教審や国民会議でも言及されたが浸透していない。奉仕の「義務化」も国民会議で見送られた。

子どもの「学力低下」傾向への対策は必須の議題となろう。「ゆとり教育」で大幅に削られた授業時数をどう復活させるのか。公立校の「学校週5日制」の現状をどう考えるのか。

委員たちには、今の教育の実態と、現場のニーズを踏まえた実のある議論を期待したい。そこでまとまった提言は、政府の責任において、できるだけ速やかに実行に移すべきだ。

再生会議の改革論議をめぐって、多くの国民が教育を語るようになる――そんな効果も期待したい。

讀賣新聞 2006年10月12日

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教育再生会議 徹底公開して国民的論議に

「教育」に何の意見も関心もないという人はまずいない。それぞれ体験や思いがあり、理想像も持つ。安倍政権の目玉政策づくりを担って発足した「教育再生会議」は常にそれを意識し、広く国民に問いかけてともに論議する姿勢を忘れないでほしい。

大きな教育改革論議や提言はその時代状況を映す。1971年に文部大臣(当時)の諮問機関・中央教育審議会が出した答申(四六答申)は、進学率上昇と受験戦争の激化、核家族化、学園紛争などを背景に論議され、教育課程や旧来の6・3・3制の見直し、画一的指導の是正、教員給与の改善などを求めた。明治の学制発布、敗戦後の新学制、これに続く「第3の教育改革」と意気込んだが、改革対象になる各分野での抵抗も強く、容易に進まなかった。

一方、70年代後半から80年代にかけ、校内暴力、いじめ、不登校など「荒れる学校」が全国に広がり、また知識詰め込み型教育や受験競争の低年齢化が問題になった。中曽根政権は中教審を一時退けて首相直属の臨時教育審議会を設け、抜本見直しを図る。87年まで4次にわたる答申は、基本的な教育改革の3本柱として(1)個性重視(詰め込みより思考、判断、表現力)(2)生涯学習体系への移行(学校歴社会から学習歴社会へ)(3)国際化・情報化など変化への対応−−を示した。

90年代以降も改革は続くが、土台には臨教審答申があり、「ゆとり」や「総合的な学習」の登場、IT教育の重視などで現在の教育現場に反映している。だが、制度にかなり手が加えられたのに「すさむ学校教育」の実態はなかなか改まらない。暴力やいじめなどだけでなく「学力低下」という昔の改革論議ではあまりなかった問題が強い危機感を持って語られる。

再び首相直属機関として登場した再生会議は、当面来春めどの中間報告に向け「学校の外部評価」「教員免許の更新制度」「全国的な学力調査実施」などを論議するという。これらは類似制度があったり、文部科学省が既に決定や検討をしている事柄で、創造的な提言とはなりにくい。もし来夏の参院選を前に刺激的な論議や提起は避け、選挙後に先送り、と考えているとしたら大きな誤りだ。

再生会議は役人の政策にお墨付きを与えたり、あるいは教科書の記述に目を光らせ、しかりつけるためにあるのではない。「第3の教育改革」をうたってから35年、さまざまな施策を重ねながらなお不満・不安が重くのしかかり続けるのはなぜか。学力低下の根源は何か。さらに「格差」「リーダー的人材養成」「学習意欲」「奉仕活動」など教育という枠だけでとらえきれない、社会の価値観や国の将来象も踏まえた複雑な論議をする構えと覚悟が欠かせない。

当然ながら論議過程はすべてオープンにし、並行して国民の間に論議を広げなければならない。それが改めて地域の教育の実情に人々の目を向かわせ、改善の一歩となるなら、再生会議は役割を果たせたといえるだろう。

毎日新聞 2006年10月12日

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教育再生会議は斬新な提言を

「教育再生会議」が近く発足する。安倍晋三首相が政権の重要課題に掲げる教育改革の具体策をここで練り上げることになる。有識者委員の人選をみると経済人や学者から現職教師、元五輪メダリストまで多彩で、保守色が際立つのは避けたようだ。委員らの主義主張には相当な開きがあるとみられ、審議は難航も予想される。タレント性の強い人材も起用されているが力量は未知数だ。

会議はこうしたメンバーの意見を集約し来春には中間報告をまとめるが、持ち時間は少ない。この制約の下で効果的な改革案を示すためには、まず会議の性格付けを明確にする必要がある。教育制度の抜本的見直しまで見据えた大きな構えで臨むのか、個別に即効性のある方策を探るのか、軸足を定めるべきである。

現段階では、当面の課題として教員免許更新制や学校・教師評価システムなどが挙がっている。ただ、これらは既に文部科学省がレールを敷いた施策だ。免許更新制の再設計や、試行が始まっている学校評価の制度的確立などは重要な問題だが、「教育再生」をうたう以上、来年末の最終報告までに、より斬新な改革案を独自に示してもらいたい。

その過程では、小泉政権下で芽生えた「教育分権」の精神を忘れてはなるまい。地域や学校が自由に教育内容を競い合える方策や、学校選択、学校設立、教員採用などの規制を緩めて多様な学校づくりができる改革案を打ち出すよう求めたい。同時に、学力向上のための効果的な方途を検討し、公教育への信頼を回復させるべきである。「学校5日制」の是非も真剣に検討してほしい。

学力向上策や学校・教師評価のシステムづくり、公徳心の再構築といったテーマをめぐっては、国の関与を重視する方向で議論が進む可能性もある。結果として文科省の権限強化を招き分権の流れを逆行させないかどうか、注意が必要だろう。

会議には有識者委員として文科省の事務次官経験者が参加、事務方にも同省幹部が出向している。抵抗を乗り越え、いかに官邸主導を実現するか険しい道のりとなろう。安倍首相が要所でリーダーシップを発揮し、時代の要請にこたえる改革の原動力となることを期待したい。

 日本経済新聞 2006年10月12日

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教育再生会議*国民の意見は届くのか

安倍晋三首相の公約の一つである首相直属の「教育再生会議」設置が閣議決定された。

教育基本法の改正問題をはじめ、教員の資質向上策などを審議し、来年三月に中間報告を取りまとめるという。

「戦後体制からの脱却」を政治理念に掲げる安倍首相にとって、再生会議は、教育の内容や制度を政治主導で根本的に改革していく舞台となる。

だが、教育改革は本来、学校に通う子どもや父母、教師、地域の住民など、多くの国民の声をよく聞きながら進めるべきものだろう。

再生会議の限られたメンバーが教育改革の内容や方向を決定し、首相がトップダウンで実現を目指すという政治手法は、首相自身が提唱する「公教育の再生」につながるのだろうか。

教育をめぐり、首相官邸と文部科学省が二重行政になる懸念もある。

再生会議のメンバーは民間の有識者十七人だ。元スポーツ選手やエッセイストらも名を連ねている。

人選を担当したのは、山谷えり子首相補佐官(教育再生担当)と下村博文官房副長官だ。首相に近いこの二人が、議論を主導していくことになるのは明らかだ。

山谷氏と下村氏は、従来の歴史教科書を「自虐的だ」と批判する「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」のメンバーでもある。

この会は、扶桑社版教科書の執筆陣が名を連ねる「新しい歴史教科書をつくる会」と協力関係にある。

その「つくる会」の会長を務めた八木秀次高崎経済大教授は、近く民間シンクタンク「日本教育再生機構」を立ち上げる。官邸主導の再生会議を「支援する」という。

こうした経緯から、再生会議の設置の狙いが透けて見える。

教育問題で首相の直属機関が設置されるのは、一九八○年代に中曽根内閣が設置した「臨時教育審議会」や、小渕内閣が設置し、森内閣が受け継いだ「教育改革国民会議」(二○○○年)に先例がある。

再生会議がこれらと大きく違うのは、連合など労働界関係者や、教育学の専門家が選ばれなかったことだ。逆に、学校「経営」に詳しい財界関係者が数多く委員に選ばれた。

審議するテーマも、学校間の競争を促す「教育バウチャー(利用券)」制度や、外部の学校評価制度導入、教員の管理強化につながりかねない教員免許の更新制など、教育現場の管理や競争を加速させるものばかりだ。

それでなくても教育をめぐっては、「ゆとり教育」の見直し、小学校での英語教育のあり方など迷走状態が続いている。再生会議が政策を決め、押し付けるならば、教育現場はさらに混乱するのではないか。

北海道新聞 2006年10月12日

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【教育再生会議】 「結論ありき」避けよ

「公教育の再生」を重要課題に掲げる安倍晋三首相の諮問機関「教育再生会議」の設置が閣議で決まり、民間委員17人が任命された。

日本の今後の教育の方向性を左右する重要な会議となるだけに議論の行方を注視したい。

座長にノーベル化学賞を受賞した野依良治氏を選出するなど財界、教育界などから幅広く著名人を選んだ印象だ。保守色が強い安倍首相の教育観だが、「安倍カラー」が際立った人選とは言い切れない。

会議担当室長となる「ヤンキー先生」こと義家弘介氏はトップダウン式の管理教育を嫌う。国旗・国歌強制に反対の立場だ。文科省に配慮した人選といわれる元文部科学事務次官の小野元之氏にしてもゆとり教育論者との指摘がある。

とはいえ「安倍色」もにじんでいる。トヨタ自動車の張富士夫会長とJR東海の葛西敬之会長はエリート養成を掲げて全寮制男子中高一貫校を設立し、教育への競争原理導入を強く訴える。森政権下で教育基本法見直しを訴えた劇団四季の浅利慶太代表も名を連ねている。

野依氏は「広い意味での教育を考えるのが会議の役目だ」と語っている。今後の教育の在り方を考えるならば、十分に時間をかけたバランスのとれた議論は欠かせないはずだ。

しかし、塩崎恭久官房長官は「スピード感を持って、結果を出していく」と会議の方向性を語り、来年3月の中間報告には教員免許更新制などの議論を盛り込む構えだ。

これでは理念作りではなく、政策実行が目的となる。既に会議の立ち上げから、役割や位置付けで食い違いを見せている。野依氏のかじ取りが注目される。

安倍首相の教育政策は文科省や中教審の方針と重なるものも多く、目新しいものは少ない。ただ、教育に強制力、競争原理を持ち込もうとしていることだけは明白である。

国民の教育改革を求める声は極めて強い。だが、拙速な結論は禍根を残しかねない。教員免許更新制にしても議論が十分ではない。「指導力不足教員」の認定制度は既に実施されており、更新制導入の必要性に説得力を欠く。

基本法改正に国民は慎重である。強制力、過度の競争原理が教育になじむのか、本格的議論はこれからのはずである。会議に求めたいのは首相の意向に追随した「結論ありき」の議論ではない。広く高い視点で教育の根幹を論じてもらいたい。

高知新聞 2006年10月12日

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教育再生会議  拙速避ける姿勢で臨め

安倍晋三首相直属の諮問機関として「教育再生会議」の設置が閣議で決まった。

座長にノーベル化学賞の野依良治氏を迎え、民間有識者十七人のほか、首相や伊吹文明文科相らも加わる。来週にも初会合を開くが、会議は官邸主導で推し進めていくという。

いじめや暴力、不登校、学力低下や不適格教員の問題などを持ち出すまでもなく、教育の立て直しは重要課題だ。

問題は再生の方向と具体策だが、性急な議論や拙速に陥っては、教育現場に混乱や対立、強制や選別の弊害を増やしかねない。再生会議には多方面からの幅広い議論を国民に示すことを望みたい。

首相は自民党総裁選や所信表明、国会答弁などで「子どもに高い学力と規範意識を身につける機会を保障する」ため、公教育の再生を強調している。

具体策としては、学校の外部評価制度や教員免許の更新制度、保護者に利用券を出し学校選択を可能にする「バウチャー制度」の導入などを示した。大学の九月入学と入学前のボランティア活動義務付け構想も打ち出している。

教育再生会議には、これらの中から実施できるものについて、早くも来年三月に中間報告を求めるようだ。

だが、学校の外部評価はどんな基準でだれに評価を求めるかによって結論が大きく違ってくるだろう。それが学校現場や地域にもたらす効果や影響、公正で中立な評価のあり方やその公表の仕方などについても、議論が欠かせまい。

教員の免許更新は今年七月に中教審が十年ごとの更新制を答申した。しかし現職にも適用するのか、不適格教員の排除にかまけて教師への締め付け強化にならないか、などの論点が残る。再生会議でもゆるがせにできない問題だ。

「すべての子に機会を」とされるバウチャー制度にしても、学校間格差や子どもの選別につながる恐れがある。

本来、教育再生を議論するなら「ゆとり教育」から「学力重視」に急転換した文部行政の迷走ぶりなど、ここに至った背景や要因をきちんと検証し、改めるべきこと、さらに伸ばすべきことを分析する姿勢がなくてはなるまい。

その点、「美しい国」をめざし「戦後レジームからの新たな船出」を掲げる首相の持論には、戦後民主教育の成果までも否定する響きがこもる。今臨時国会で成立を急ぐ教育基本法改正案と合わせ、学校現場の管理強化や教師の締めつけを進めるため、そのお墨付きを再生会議に求める狙いさえうかがえよう。

委員の顔ぶれも、規制緩和や教育への競争原理導入などを求める人が多いのに対し、日教組など労組代表は入っていない。その底意もおのずと明らかだ。

加えて、この種の諮問機関では都合の良い部分だけがつまみ食いされた例も多い。再生会議が「初めに結論ありき」の役割にとどまるだけなら、真の教育再生はまたも空振りに終わりかねない。

京都新聞 2006年10月12日

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教育再生会議/根本から論議してほしい

安倍晋三首相は教育再生を重要政策に掲げ、その骨格を諮問する首相直属の「教育再生会議」を設置する。

会議のメンバーは、首相をはじめ文部科学相や民間の有識者ら約十人となる。十日にもその顔ぶれが決まる運びだ。

政府は、教育の根幹を論議する重要な場と位置付けるようだ。首相の教育観は保守色が強いといわれるが、会議では十分な時間をかけ、バランスのとれた議論が欠かせない。それを可能にする委員構成になるのが前提だろう。

安倍首相が掲げた教育政策は@教育基本法改正案の成立A学校や教員の評価制度導入Bゆとり教育を見直す学習指導要領の改定C全国学力調査の実施D発行された教育利用券で保護者が学校を選択できるバウチャー制度の導入E大学の九月入学制とそれまでのボランティア活動-などだ。

教員免許更新制、全国学力調査など、文科省や中央教育審議会がすでに打ち出した方針とも重なるところが少なくない。欧米の一部で導入されているバウチャー制も二十年前の臨時教育審議会で論議されたことがある。

小泉前政権が掲げた構造改革を官邸主導で推進する規制改革・民間開放推進会議でも、バウチャー制など教育行政の規制改革が課題にのぼっていた。

首相独自の教育政策を華々しく打ち上げたわけではないが、政策構想を並べてみると、教育に競争原理を持ち込もうとしていることがよく分かる。

教育再生会議の役割や位置付けは、まだ明確ではない。文科省、中教審との関係はどうなるのか。ただ、首相が官邸主導で目指す教育改革への“推進エンジン”にしたい意図は十分にうかがえる。

今の教育がこれでいいと思っている者はほとんどいないだろう。教育改革は不可欠である。

だが、教育に市場・競争原理を入れるのは慎重の上にも慎重であるべきだ。特に、全体の底上げこそ大切な義務教育になじむのか、疑問がある。一歩誤ると、義務教育の破壊にもつながりかねない。

会議の座長には、ノーベル化学賞受賞者・野依良治氏の起用が内定した。氏は、中教審委員でもあり、これまで国の教育政策に是々非々で、はっきりと発言している。あらためて、国民の代表としてのかじ取りを期待したい。

教育再生会議に求めたいのは、首相の意に沿った「結論ありき」ではなく、教育再生の根本的論議をすることだ。

神戸新聞 2006年10月9日

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安倍首相の教育再生 だれのための「改革」か

教育再生を基本戦略におく安倍首相主導のもとで教育基本法の国会論戦も本格化する。

これはこれで大いに結構なのだが、官邸対文科省官僚との主導権争いになることだけはやめてほしい。基本法という大きな表題に隠れて、無造作に扱われている教育基本法周辺の問題点に触れておきたい。

まず教育バウチャー制導入である。これは利用券を意味する言葉で、欧米にならい学校教育機関の規制緩和に関連づけるものだ。バウチャー制ではどの機関で教育を受けるかという選択の幅が広がるメリットがある。 しかし、都道府県の公立高校受験では志望高校の自由選択が可能となるが、問題になるのは小中学校だ。粗雑に進めると、エリート校に志願者が集中して受験地獄が復活する恐れが出てくる。

逆に志望者過少で立ち行かなくなる学校が出る可能性も生じる。格差も受験地獄も改革のひとつで悪くはないと、小泉前首相流に切り捨てて良いものだろうか。

格差助長にはするな
生徒たちが不登校や非行に走ることなく、劣等感が生ずるのを防ぐのが「美しい国・日本」というものであろう。もっとシミュレーション研究を重ねるべきではないだろうか。

具体的には教員任期制と外部評価導入である。首相は教育再生の目玉として教員免許の更新制度や学校の外部評価制度を導入、教員の資質向上に努める考えを示している。

これは教員の優劣を明らかにして、それなりの処遇をするということであり、従前から必要性が指摘されてきた問題である。すでにかなりの大学で教員任期制を採用し、専門機関による評価も実施されている。

小中高にも教員任期制を導入するのは、確かに資質に欠ける教員がいることは事実なので当然ともいえよう。だが、優秀な人材が将来に不安を持ち、教職を敬遠するようなことがないように、並行して教職者育成研修の充実策を講じるべきだ。

小中高教育に外部評価を加えるのは、大学評価レベルとは異なる側面から行われるべきものと考える。北海道滝川市では、教員を指導監督する立場にある教育委員会が言語道断にも、いじめられて自殺した女子児童の書き置きを遺書と認めず、1年にわたり両親の訴えを無視した。

外部評価によって、いじめを放置するような教育組織の宿弊に鉄ついを下してほしい。教育の最大の敵は「無関心」と「無責任」なのだ。

まず公務員からせよ
次に大学の9月入学制導入について考えたい。

首相は教育改革の目玉政策として大学の9月入学制を導入し、国際標準に合わせ国際交流をしやすくすること、半年間の社会貢献活動を通じて思いやりの意識を育てることを主張している。

奉仕活動は、たとえ強制であっても若者には大きな意味があると首相は強調するが、いきなり大学合格者に奉仕労働を強いるのは違憲にならないか。首相周辺からも漏れ聞こえる。ニート対策としての「徴農制」への地ならしと考えているのだろうか。

9月入学制度はすでに大学独自に採用可能だが、実行している大学は少ない。企業の新卒採用が3月卒に集中しており、大学側も受験料や入学金の遅れが大きな痛手となるからである。 合格者よりも公務員新規採用者にボランティア活動を義務化するのが筋論だろう。半年の奉仕活動中は任官を猶予し、9月に本採用とすれば済むことだ。 厳しい倫理が必要な公務員に社会奉仕を強制してこそ大きな意味があるのではないか。

客員 前田邦夫(2006.10.8)

岩手日報 2006年10月8日

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